映画「総理の夫」に出演した、俳優としての境地とは 岸部一徳さんインタビュー=りんたいこ
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映画「総理の夫」に出演 岸部一徳・俳優/858
スクリーンの中で抜群の存在感を放つ俳優の岸部一徳さん。それでも、「僕自身は特に、個性があるなんて思ったことがない」という。そんな岸部さんが考える「本来の自分」とは──。
(聞き手=りんたいこ・ライター)
「俳優という仕事を通して、質のいい人間になりたい」
「休場していた横綱・白鵬が全勝優勝したような状態で引退するのが僕の理想」
── 9月23日公開の映画「総理の夫」では政界のドン、原久郎を演じています。出演の決め手は?
岸部 政界物は嫌いじゃないのと、脚本自体も軽めで楽しく見られる一方で、政界の縮図みたいなものがちゃんと描かれていた。それから、(映画などでは)いつも当たり前に総理大臣の奥さん役はいるけれど、女性が総理大臣になるストーリーは初めてで、その夫がどういうふうに描かれるのかな、と。意外と面白く書かれていましたね。(ワイドインタビュー問答有用)
── たまたまですが、映画公開のタイミングが、総選挙の実施時期と近くなりそうですね。
岸部 (総理の夫役の)田中圭さんは若い人に人気があるので、この映画を通して若い人にも現実の政治の世界に興味を持ってもらえればと思っています。僕(が演じる役)自体がすごくいい人じゃないのも面白いかなと。この立場の人は現実の政治の世界では普通にいるわけで、時代劇の悪役でもないので特に役作りはしませんでしたよ。
── 映画では、中谷美紀さん演じる少数野党・直進党党首の相馬凛子が、日本初の女性総理大臣となります。岸部さんは、女性の総理大臣をどう思いますか。
岸部 外国では女性の総理大臣はいますが、日本は意外と古くて、まだ男中心の社会。政治の世界で女性が総理大臣になるのは難しい問題がいっぱいあるのでしょうが、日本も早くそうなればいいと思いますよ。
「ハラグロ」の存在感
作家の原田マハさんによる同名小説を映画化した映画「総理の夫」。田中さん扮(ふん)する鳥類学者、相馬日和(ひより)の妻、凛子が総理大臣になり、“総理の夫”となって平穏だった生活がかき乱される様子がユーモラスにつづられていく。岸部さんは腹に一物ある民心党の党首、原久郎を演じ、主人公の日和が「原久郎だけにハラグロ」と言う通り、怪しげな存在感を放っている。
── 普段、役作りはどのように?
岸部 役作りという言葉を、どういう芝居をしようとか、こういう役だからどう作っていこうという意味で捉えるなら、僕はあまりそういうことはしません。今回のような政治の話だったら、テレビのニュースに登場する政治家の人たちの関係性を考えてみるとか、金融の話だったら金融のことを事前に勉強する。それが役作りなのかもしれません。
── 演じる役の性格を考えるより、外を固めると?
岸部 それもありますが、例えば、「ドクターⅩ 外科医・大門未知子」(2012年から続く米倉涼子さん主演のテレビ朝日系ドラマ。岸部さんは大門が「師匠」と慕う元医師・神原晶役で出演)だと、ここでスキップしてくださいと言われたら、それは、米倉さんがやっている役と僕がやっている役の関係性から、演出家や脚本家の人が、(ドラマを)面白くしようと考えたもので、僕自身はスキップにどんな意味があるのだろうとは考えないです。自分流のスキップを楽しくやるまでですね。
── 岸部さんほどの俳優でも、できない表現はありますか。
岸部 昔はよくありました。ここで驚いてくれとか、もっと楽しい顔をしてくれとか……。でも、できないものはできない。今は、「分かりました」と言って僕が僕流に驚いたら、周囲が受け入れてくれるようになりました(笑)。
「死の棘」で手応え
1967年にデビューしたグループサウンズ「ザ・タイガース」のベーシストとして活躍した岸部さん。ボーカルの沢田研二さんや弟でギタリストの岸部シローさんらをメンバーに人気を集めた。71年に解散後も「PYG」「井上堯之バンド」で音楽活動を続けたが、やがて才能に限界を感じ、音楽の世界から離れる決意をする。 その時、俳優の仕事を勧めたのが、「寺内貫太郎一家」など70年代の人気ドラマを手掛けた演出家の久世光彦さんだった。久世さんの紹介で樹木希林さんの事務所に入り、名前も当時の「岸部修三(おさみ)」から、樹木さんが命名した「一徳」に変えて俳優人生をスタートさせた。しかし、新たな人生の手応えを得るには時間がかかった。
── 俳優として駆け出しのころは?
岸部 俳優をやり始めたけれど仕事はあまりない。生活は本当に貧乏のどん底みたいなものですよ。でもそんなに苦にはならなかった。ザ・タイガースからいきなり俳優に、というのではなく、徐々に社会に慣れていっていたので、何とか生活しながら続けていました。
── 作家・島尾敏雄さんの私小説を映画化した「死の棘」(90年)に出演し、翌年の日本アカデミー賞…
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週刊エコノミスト
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