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教養・歴史書評

欧州経済と複雑なEUの制度をフルカラーで平易に解説=評者・藤好陽太郎

『ヨーロッパ経済の基礎知識 2022』 評者・藤好陽太郎

著者 川野祐司(東洋大学教授) 文眞堂 3025円

環境政策から各国説明まで EUの制度や規制を平易に解説

 評者のロンドン勤務時代に日本政府関係者は「欧州連合(EU)は利害が複雑で、議論が長い」とこぼしていた。加盟27カ国、公用語が24もあるのだから、当然かもしれない。本書はEUの複雑な制度や仕組みをひもとき、ユーロからフィンテック事情まで平易に解説してくれる。

 欧州統合の父、ジャン・モネは「欧州は危機の中で形成され、解決策の積み重ねとして構築される」と喝破した。リーマン・ショック後も貧富の差や移民問題が深刻化する中、英国がEUを離脱。解体論もささやかれる中、EUは経済をコロナから再建させる90兆円超の「復興基金」について、徹夜の議論の末、昨年合意した。基金はEUが市場から借金をして加盟国に配るもので、悲願の財政統合への期待をつないだ。危機を経てEUは求心力を高めたのだ。

 復興基金を含めたEU予算全体の柱は、環境とデジタル分野だ。環境では、フォンデアライエン欧州委員長が2050年までの温室効果ガス発生ゼロの具体策を主要国・地域として初めて公表し、「欧州は(世界を)先導する準備ができている」と言明した。

 EUは産業戦略も打ち出し、自動車メーカーは電気シフトを加速。日本では環境対策はコスト増要因とされるが、EUでは技術の導入が競争力を強化し、雇用を生み出す発想で政策が創られていると解説する。これは基準やルールを世界標準にしようするEUの戦略にもつながる。

 EUは戦略性の裏側で、選挙を経ていない「EU官僚」への権力集中に対する批判を抱える。基金は「(人口減少対策など)結束政策に関わる分野も多く」、国・地域の不均衡是正を打ち出すが、利害衝突で紛糾するリスクを抱える構図に変わりはない。

 多くのコラムが彩りを添える。例えばルクセンブルクの1人当たり国内総生産(GDP)が世界一の理由。金融で稼いでいるほか、欧州は物価も高めなので、深く考えずに流してしまう部分だろう。ここにはカラクリがあり、実はフランス在住者が隣りのルクセンブルクに勤務すると、GDPはルクセンブルクにカウントされる一方、人口はフランスに計算されるという。ルクセンブルクは人口が少ないため越境労働者のGDPへの貢献が大きく、1人当たりのGDPは高くなる。一方、フランスは人口が多く、影響が少ないのだ。

 全ページカラーで、独仏など個別国も著者の写真付きで説明し、練習問題もある。制度や枠組みを知ってこそニュースも読み解きやすくなる。手元にあれば役立ちそうな本だ。

(藤好陽太郎・追手門学院大学教授)


 川野祐司(かわの・ゆうじ) 1976年生まれ。九州大学大学院経済学府博士課程単位取得退学後、東洋大学経済学部准教授を経て現職。ヨーロッパ経済論、金融論、国際金融論が専門。著書に『キャッシュレス経済 21世紀の貨幣論』など。

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