教養・歴史書評

思想、感情まで「操作・誘導」するデジタル時代の真の恐怖 評者・諸富徹

    『監視資本主義 人類の未来を賭けた闘い』 評者・諸富徹

    著者 ショシャナ・ズボフ(ハーバード・ビジネススクール名誉教授) 訳者 野中香方子 東洋経済新報社 6160円

    思想、感情まで「操作・誘導」 デジタル時代の真の恐ろしさ

     私たちの日常生活がインターネットへの接続なしには困難になってから久しい。検索履歴などのデータがサイト運営企業に利用されることは薄々知っているが、その真の恐ろしさは知らない。だが、私たちの行動、思想、感情が監視されるだけでなく、積極的に操作・誘導の対象とされ、企業収益の極大化に奉仕させられていると知ったらどうであろうか。

     本書は、デジタル時代の資本蓄積様式を「監視資本主義(Surveillance Capitalism)」の名のもとに解明を試み、その真の恐ろしさを暴いて警告を発し、我々にその害悪と闘うことを求める著者渾身(こんしん)の大著である。

    「抽出要求」「行動余剰」「予測要求」「レンディション」「行動修正」「道具主義」……。次々と見慣れない概念が出てきて戸惑うのだが、これらは、まだその資本蓄積様式の全貌が明らかにされていない監視資本主義の本質をつかむための、著者独自の知的努力の産物にほかならない。

     この資本主義が真に恐ろしいのは、私たちの行動ばかりか思想や感情まで「操作・誘導」の対象とされ、究極的には、人間の本質まで破壊される恐れがある点だ。例えば、「ウエアラブル」(着用)製品の目立たないセンサーは、本人同意もないまま生体監視を行い、「控えめ」なカメラで読み取られた顔の表情や身ぶりなどの情報は、私たちの感情から深層心理までを把握する材料となる。

     こうした情報分析のターゲティング広告への適用を超えて、フェイスブックなどは「チューニング」「ハーディング(群れ化)」「条件づけ」といった技法を最大限駆使して利用者の感情を操作し、望む方向に行動させる実験に成功を収めているという。

     数年前に一世を風靡(ふうび)したゲーム「ポケモンGO」は、実際に「ゲーミフィケーション」(ゲームの原則をゲーム以外の分野に応用)の手法で人々を仮想空間から現実空間に誘導し、思うように行動させた驚くべき成功例だ。ポケモンで楽しんでいるつもりが、見事に操られていたのだ。

     とはいえ、透明性、本人同意、プライバシー確保は、デジタル企業がもっとも嫌がる要求であり、ここに監視資本主義への抵抗の手がかりがある。これらは彼らの事業を遂行困難にし、手続きコストを増やして大幅に収益を減らすからだ。

     監視資本主義の合法性を否定し、私たちの自由意思を示すのか、それとも彼らの意のままに操られ、利益追求に奉仕させられるのか。前者に向けて一歩を踏み出そうとの著者の呼びかけに、私たちはどう応えるのだろうか。

    (諸富徹・京都大学大学院教授)


     Shoshana Zuboff 米シカゴ大学で心理学、米ハーバード大学で社会心理学の博士号を取得後、ハーバード・ビジネススクールに参画。同スクールでテニュア(終身在職権)を獲得した最初の女性の一人。

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