商社のトップ争いで中国の鉄冷えが三菱商事にはプラスに、伊藤忠・三井物産にはブレーキになる業界事情
伊藤忠商事、三井物産、三菱商事の商社3強が、2022年3月期連結最終(当期)利益のトップ争いを7000億円台という史上最高レベルで争っている。
勝負を決する要因となりそうなのが中国の鉄鋼生産だ。中国の粗鋼生産量は、直近の統計である9月で前年同月比21.2%減の7375万㌧にとどまっている。
前年同月比割れは3カ月連続で、中国の鉄冷えが鮮明だ。
鉄鉱石生産を得意とする三井物産や伊藤忠にとっては中国の鉄鋼生産減が逆風になっている。
一方、同じ鉄鋼原料でも原料炭(製鉄用石炭)の生産を得意とする三菱商事は中国の粗鋼生産減の影響は比較的受けずに順調に利益を伸ばしそうだ。
このメカニズムはどうなっているのであろうか。
過去最高7000億円台で3社が勝負
11月第1週に発表された商社の21年4~9月期決算では、各社が通期予想を上方修正した。
各社の上方修正後の通期予想は、伊藤忠7500億円、三菱商事7400億円、三井物産7200億円だ。資源高に加えて、自動車事業が好調であったという共通点がある。
商社業界の過去最高益は三菱商事が19年3月期に出した5907億円だ。
3社はこの額をはるかにしのぐ水準でトップ争いをすることになる。
トップ争いに当たって重要な要素となりそうなのが、鉄鉱石価格の下落と原料炭の上昇という2つのトレンドだ。
三菱商事は前期、原料炭が大ブレーキ
決算で回復ぶりが目立ったのが三菱商事だった。
長らく商社業界トップに君臨したが、21年3月期は最終利益1725億円で4位に終わった。
同社は豪州で原料炭事業への投資などを行う「三菱デベロップメント(MDP)」社を有する。
三菱デベロップメントは、資源世界大手BHP(英豪)と折半出資で原料炭開発・生産会社「BMA(BHP・ミツビシ・アライアンス)」を設立し、事業を行っている。
BMAの原料炭生産量は6300万㌧(20年)で、海上貿易量の約2割、高品位な原料炭に限って言えば約3割を占める。
現在、三菱デベロップメントの利益は、BMA原料炭事業からの取り込み利益(出資比率に応じた子会社・関連会社からの取り込み額)がほとんどだ。
その三菱デベロップメントは三菱商事の稼ぎ頭であり続けた。
三菱商事が過去最高益だった19年3月期では、同社全体の最終利益5907億円のうち、2469億円を三菱デベロップメントが稼いだ。
しかし、21年3月期は同社の取り込み利益は109億円に沈んだ。
同社の19年3月期の2469億円という利益は、当時は一般炭(発電用石炭、三菱商事は19年に完全撤退)の生産事業からの利益も取り込んでいたので、単純比較はできないが、原料炭事業が大幅減益だったことはうかがえる。
豪中関係悪化のあおり受け
21年3月期の三菱デベロップメントの不振は、新型コロナウイルスの影響で世界の粗鋼生産が滞った上、唯一、粗鋼生産が活発だった中国で豪州産の原料炭が閉め出されたことが原因だ。
豪中関係悪化が影響して対中輸出が激減したのだ。中国は、原料炭に関しては、ロシアや北米からも調達できるのだ。
ただ、今期の三菱デベロップメントの回復は鮮明だ。同社の21年4~9月期の取り込み利益は前年同期比301億円の455億円だ。
原料炭価格が「未知の領域」へ上昇
さらに、三菱デベロップメントが今後収益を伸ばす要素がある。
7月以降の急激な価格上昇である。過去3年間は1㌧当たり100㌦台で推移していたが、7月から上昇が顕著で、10月末で400㌦という「未知の領域」に迫った。
原料炭は中国輸入依存が小さく、世界中で需要がある。
原料炭の場合、海上貿易に占める中国向けの割合は1割程度だ。
21年に入って粗鋼生産が回復基調にあるインドや欧州、日本、ブラジルでも需要があり、価格を上げているとみられる。
下半期以降の増益ベース加速か
原料炭の価格変動は契約の性質上、2カ月程度後ずれして利益に効いてくる。
7月以降の原料炭価格上昇は、三菱商事の第3四半期(10~12月)以降の決算に大幅にプラスに作用しそうだ。
三菱商事と逆の理由から、利益の上昇ペースが鈍りそうなのが、三井物産の鉄鉱石だ。
中国は、鉄鉱石に関しては、自国や豪州以外から調達は難しい。
鉄鉱石については世界の海上貿易の7割を中国向けが占めると言われるほど、中国は輸入依存度が高く、世界市場に与える影響も大きい。
中国依存の鉄鉱石価格は下落
三井物産は豪州でローブリバー、マウント・ニューマンなどの鉄鉱石開発・生産事業を有する。
中国の粗鋼生産量が20年に過去最高の10・5億㌧に達したこともあり、鉄鉱石価格は好調だった。
このため、三井物産の豪州鉄鉱石事業は21年3月期に2242億円(前期は1715億円)の利益を稼いだ。
三井物産の同期の最終利益(3354億円)の3分の2を占める圧倒的な存在感である。
21年4~9月期の同事業も前年同期比95%増の1743億円と好調だ。
ただ、今後は価格下落が利益にマイナスに作用しそうだ。
鉄鉱石価格は中国の粗鋼生産の増加に合わせるかのように、21年7月まで上り調子だった。
シンガポール取引所の鉄鉱石先物価格は、1㌧当たり199㌦に達した。
しかし、その後は下落基調に転じ、10月末には110㌦にまで下落した。
物産・伊藤忠の鉄鉱石事業の行方は
鉄鉱石も原料炭同様、市況が利益に影響してくるのは3カ月程度後になる。
三井物産は7月以降の鉄鉱石価格下落によって、下半期(10月~22年3月)の利益の伸びにブレーキがかかる可能性がある。
なお、鉄鉱石価格の上昇がこれまではプラスに影響し、下半期にネガティブインパクトになりうる可能性は伊藤忠も同様である。
同社の21年3月期連結最終利益は4014億円だったが、豪州の鉄鉱石事業の取り込み利益が999億円と貢献した。
21年4~9月期も豪州鉄鉱石事業は昨年同期比2倍超の913億円と、同社の利益に大きく貢献している。
上半期の数字は参考程度
以上の事情からすると、上期(4~9月期)の最終利益が伊藤忠(5006億円)、三井物産(4046億円)、三菱商事(3605億円)という順位であることには、大きい意味はない。
金属資源に限って言えば、伊藤忠、三井物産の伸びが鈍化し、三菱商事が尻上がりに伸びる可能性が高いからだ。
焦点は、2月に発表される3社の第3四半期決算で、7月以降の鉄鉱石価格下落・原料炭価格上昇がどのように作用するかに移っている。(種市房子=編集部)