分かち合い、助け合いとしての経済活動を模索する=評者・浜矩子
『連帯論 分かち合いの論理と倫理』 評者・浜矩子
著者 馬渕浩二(中央学院大学教授) 筑摩選書 2090円
宗教との関わり含め 人間性ある経済活動を模索
タイトルに引き寄せられて、本書を書評対象に選んだ。そして、読み始めて驚いた。こんな言い方は著者への失礼に当たるかもしれないが、本書は評者が読むために書かれたのかもしれない。
評者はカトリック信者だ。そしてエコノミストだ。カトリックの信仰と経済分析が出会う時、その交点に、評者の居場所がある。何かにつけてそう感じる機会が増えている。すると、どうだろう。本書の中にも、現代カトリック社会と経済の出会いがある。両者を束ね寄せているのが本書のテーマである「連帯」にほかならない。
現代カトリック社会と連帯概念の関係については、本書の第6章で論じられている。経済と連帯に関しては第7章で取り扱われている。
第6章に踏み込んでほどなく、またしても驚いた。なぜなら、「アガペー」という言葉が出現したからだ。著者が言う通り、聖書の中において、アガペーは「神が人間に向ける無償の愛のことである」。カトリック信者にとって、アガペーは最も本質的な愛だ。著者はそこに連帯概念の源泉を見いだしている。これは誠に心強い。
実を言えば、評者もアガペーと経済の関係が大きな位置づけを占める本を書こうとしている。あまりにも進捗(しんちょく)が遅滞しているもので、予定しているタイトルをこの場で明かすことは気が引け過ぎる。何とかしなければ。そう呻吟(しんぎん)している最中に、本書と出会った。神様のお導きによる出会いだろうか。きっとそうだ。
連帯は無償の愛に根ざす。そして、連帯が人間の営みである経済活動を人間性あるものにする。この文脈が本書を貫いている。カトリック的愛に、社会性を付与しているのが連帯だ。著者はそうも言っている。これは、カトリックの歴代教皇の「回勅(かいちょく)」(世界の信者に向けての教皇書簡)に関する著者の精密な分析から出てきた考察だ。評者が常々直観的に確信してきたことの数々に、本書が論理的裏付けを与えてくれる。この快感はすてきだ。
さらにもう一つ、驚くべき発見があった。本書の序章に「そうした状況におかれた他者をまえにしたとき、人は助け合いの関係を作り出そうと試みる」というくだりがある。「そうした状況」とは、災害などで平穏な日常を奪われてしまった状況を指している。ここで語られている心理は、経済学の生みの親、かのアダム・スミスの著作『道徳感情論』で語られている共感性そのものだ。やっぱり、本書と評者の出会いは神業だ。
(浜矩子・同志社大学大学院教授)
馬渕浩二(まぶち・こうじ) 1967年生まれ。東北大学大学院博士課程修了。文学博士。専門は倫理学、社会哲学。著書に『倫理空間への問い』『世界はなぜマルクス化するのか』『貧困の倫理学』などがある。