歴史書の棚 列車内で大衆の声を聞く 陰影に富む時間旅行=井上寿一
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今から80年前の1941年12月8日、真珠湾攻撃が始まった。そこからさかのぼること約10年前、日米戦争の勃発、国力比較の観点から日本の敗北、米国の「属国」化を予見する人たちがいた。
彼らは機密情報を握る政府要人ではなく、在来線内の「純朴その物な村の年寄りの一団」の乗客だった。当時は、列車内で交わされる会話は、政治学者など研究者が大衆の本音に接することができる貴重な機会だったようだ。この「年寄りの一団」の車内の会話を記録したのは、原武史『歴史のダイヤグラム 鉄道に見る日本近現代史』(朝日新書、935円)によれば、5・15事件に関与した農本主義者の橘孝三郎である。
本書は全5章のなかに、鉄道にまつわる79個のエピソードをちりばめている。
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週刊エコノミスト
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