大手出版社はいまやコミック、デジタルが収益の大黒柱=永江朗
大手はコミック、デジタルで稼ぐ
KADOKAWAは10月29日、21年9月中間決算を発表した。売上高は前年同期比7・4%増の1048億1100万円。営業利益は同26・6%増の99億3800万円。経常利益は同30・3%増の106億400万円。最終利益は同36・7%増の71億1600万円だった。
内訳を見ると、ゲーム事業は売上高、営業利益ともに前年同期比減となったが、出版事業と映像事業が好調だった。特に出版事業は直木賞と山本周五郎賞をダブル受賞した佐藤究著『テスカトリポカ』をはじめ単行本や文庫、児童書、コミックスが好調だった。今年4月から埼玉県所沢市で書籍の製造ラインが一部稼働開始したことや、雑誌等のデジタル移行が効果を上げている。
好調なのはKADOKAWAだけではない。集英社が8月27日に発表した21年5月期決算では、売上高が前期比31・5%増の2010億1400万円と、初めて2000億円を突破。当期純利益は前期比118・3%増の457億1800万円となっている。売上高のうちコミックスは617億1300万円を占める。『鬼滅の刃』や『呪術廻戦』など大ヒット作に恵まれたことが大きい。また、売上高の半分近くが物販などの事業収入で、中でもデジタル関連の売上高は449億900万円と前期比42・5%増加した。版権ビジネスの売り上げも大きい。
このコーナーでも何度か指摘してきたように、KADOKAWAや集英社だけでなく、講談社、小学館といった大手出版社はここ数年、好調が続いている。「出版不況」とか「出版は斜陽産業」という言葉はもう当てはまらない。大手出版社で稼いでいるのは、主にコミックであり、そのデジタル化や版権ビジネスである。逆に言えばコミック依存であり、一部のヒット作に頼った脆弱(ぜいじゃく)な構造でもある。
しかし、『鬼滅の刃』のように、人気を集める連載も、いつかは終了する。また、コミックという表現様式が、出版社や出版産業を必要としなくなったら、これらの売り上げは消えてしまう。いまコミックを手がける出版社は作家の発掘と育成に懸命だが、編集者やマネジャーの育成にも力を入れるべきだろう。
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