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エビデンスが突きつける「コロナ休校」の効果の薄さと見逃せない副作用=高久玲音

    コロナ休校で体重増の副作用

    幼稚園年長と小1で決定的な差

     デルタ株が猛威を振るった新型コロナウイルス第5波(2021年6月下旬~)で、第1波に続き多くの学校が休校になった。文部科学省の調査によると、9月1日時点で夏休みの延長や一斉休校を実施(予定を含む)していたのは、小学校が209自治体(全体の12・4%)、中学校は215自治体(12・8%)、高校は28自治体(19・2%)だった。また、休校が解除された後も、緊急事態宣言が続いている地域では分散・隔日登校などの平時とは異なる学習環境を余儀なくされた。

     現時点で第5波は収束しているものの、冬の第6波の流行は不可避と考える識者がほとんどだ。では、この冬に流行が再拡大した場合、再び休校を行うべきなのか。重要なのは、過去の休校措置で何が起こったのかを確認し、エビデンス(根拠)に基づいて、より妥当性の高い政策を選択することである。

    学力より生活習慣に影響

     休校実施の判断に際しては、その「副作用」を注意深く見極める必要がある。例えば、休校による子供の学習の遅れは最も懸念されるところだ。この点については、浅川慎介・大阪大学特任研究員らの興味深い研究がある。

     浅川研究員らは、コロナ前後における奈良市の小学生の算数の点数を解析。20年3月の休校当初は確かに点数が顕著に低下したが、休校から6カ月後には回復し、平均的にはむしろ例年を上回るまでになったことを確認した。さまざまな行事が取りやめになり、学習時間を増やした子供が多かったことや、夏休みを大幅に短縮して授業に充てた学校が多かったことなどによるものとみられる。

     こうした解析結果が、東京や大阪といった、感染が拡大し子供に対する制約も多かった大都市圏でも再現されるかどうかは検討する必要があるが、意外にも、休校の影響ですべての子供の学習が即座に例年より遅れたというわけではなかったと言えそうだ。

     一方で、「見えにくい副作用」にも留意する必要がある。例えば、休校は一時的であっても子供の生活習慣を大きく変えてしまう可能性がある。生活習慣の変化は、即座に目に見える悪影響をもたらさないかもしれないが、長期的な悪影響は無視できないのではないか。そこで、筆者と横山泉・一橋大学准教授は、子供の生活スタイルの変化や健康に焦点を当てた研究を行った。

     この研究では、20年3月の休校が主に小学校以上に対して実施されており、未就学児は同時期におおむね保育園や幼稚園に通園できていた、という点を利用した。3月に休校が実施された時点で1年生だった早生まれ(13年1~3月生まれ)の子供は1カ月間ほぼ学校に行けなかった一方で、幼稚園の年長だった13年4月生まれの子供は通園できていた。結果として、年齢も近いほぼ同質な子供が「通学群」と「休校群」に分けられたと考えられる。

     この研究デザインの優れた特徴は、コロナそのものによるさまざまな影響と休校の影響を明確に区別できる点にある。「通学群」と「休校群」は、コロナの感染恐怖によるさまざまな制約は同じように受けているが、「通学できたかどうか」だけが大きく異なっている。

     筆者らは休校直後の20年4月にはこの制度設計が社会実験とみなせることに気づき、入念に調査票を設計した上で同年7月に大規模なアンケート調査を実施した。アンケート対象は、調査時点で月齢が89カ月より上の子供が休校の対象となったことから、その前後36カ月の月齢の子供を持つ母親に限定した。その結果、約2万人の母親から回答を得ることができた。

     ソーシャルメディアの利用増をはじめさまざまな変化が確認されたが、最も注目すべきは子供の体重の変化だった。「私の子供はコロナ前と比べて太った」と答えた母親の割合を調査時点での月齢で並べると、89カ月より小さな子供を持つ母親では10%程度なのに対し、3月の休校の影響を受けた89カ月以上の群では20%程度に跳ね上がった(図)。子供の月齢が88カ月でも89カ月でも、コロナ禍における休校以外の変化はほぼ同じように受けていると考えられるため、このジャンプは他のコロナ禍の政策や変化ではなく、まさに休校の影響を捉えていると考えられる。

     体重増加は即座に子供の健康を害するわけではないが、子供の生活習慣そのものが休校で変わってしまった可能性を示唆する。生活習慣を変えることが難しいのは大人も子供も同じであり、長期的な影響も懸念される。加えて、コロナ禍や休校により子供たちの間で進んだ不活発な生活習慣の帰結は、テストの点数のように短期的に結果がわかるものではないため、長期間放置される懸念もある。コロナ後まで、推移を注意深く見守る必要がある。

     休校により「子供との関係に悩む」母親も増加していた。こうした変化も中長期的には多くの負の結果をもたらす可能性がある。

     以上のように、休校は、学習の遅れのような見えやすい副作用だけでなく、見えにくい副作用をももたらす可能性があるため、子供や家庭にとってのデメリットをしっかり精査する必要がある。他にも、都市部では2年間、夏のプールが開いていないところも多く、泳げない子供が増えることも懸念される。「泳げるかどうか」は細かい論点かもしれないが、考えられる副作用は丁寧に精査されなければならない。

    感染抑制効果はナシ

     ここまで休校の副作用について論じてきたが、そもそも休校によって感染は抑制されたのだろうか。この点について、丁寧な解析を行ったのが学習院大学の福元健太郎教授らのグループだ。福元教授らは、3月初から順次始まった休校要請の影響を市区町村単位の感染者数と重ね合わせることで、休校の影響を明らかにしている。

     当時は「一斉休校」と言われたが、自治体によっては学校を開けていたところもある。例えば4月6日の入学式の日には調査対象となった739市町村のうち483(全体の65%)で学校は開校していたという。3月から5月までの期間は休校・開校の判断がばらついていた時期があり、福元教授らはそうした地域差に着目し、よく似た市区町村の感染状況を比較することで感染抑制への影響を明らかにした。結果的に、休校による感染抑制効果は全くなかったという。成果は今年10月27日、著名な医学雑誌『Nature Medicine』に公開された。

     混乱の中で政策をとらざるをえなかった第1波と異なり、今後予想される第6波では、政策判断の際に参照すべきエビデンスが数多くある。休校に関して、「現場の空気感」で政策立案がなされる時期はとうに過ぎていることを、関係者は強く意識すべきだろう。

    (高久玲音・一橋大学大学院経済学研究科准教授)


     ■人物略歴

    高久玲音(たかく・れお)

     1984年神奈川県出身。2007年慶応義塾大学商学部卒業、15年同大学大学院で商学博士号取得。日本経済研究センター研究員、医療経済研究機構主任研究員を経て、19年から現職。専門は医療経済学、家族の経済学、応用ミクロ計量経済学。


     本欄は、松島法明(大阪大学教授)、加藤敬太(埼玉大学大学院准教授)、高久玲音(一橋大学准教授)、加藤木綿美(明治学院大学准教授)、伊藤真利子(平成国際大学准教授)の5氏が交代で執筆します。

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