教養・歴史書評

紙の本も導入検討すべし。価格の変化で需要喚起される動き=永江朗

消費を刺激する価格変化の動き=永江朗

 11月末の繁華街はどこもにぎやかだった。新型コロナウイルスの新規感染者数が低くとどまっているのに加え、ブラックフライデーがあったからだろう。初めて「ブラックフライデー」という言葉を目にしたときは、「ブラックマンデー」の連想から「すわ、株価大暴落?」と身構えたが、米国で感謝祭(11月の第4木曜日)翌日のバーゲンセールと聞いて安心(?)した。

 日本の出版業界でもブラックフライデーのセールはあった。一部の書店チェーンはポイントを2倍にしたり、ネット通販については5倍にしたりした。もっとも、元のポイントが定価の1%だから、お得感もわずかだ。再販制(定価販売制)で紙の本の値引きが制限されているためである。

 それに対して再販制が適用されない電子書籍の販売サイトはにぎやかだった。例えばアマゾンのキンドルストアは、ブラック=クロにかけて1冊96円の特設サイトを用意したり、通常月額980円の定額読み放題を3カ月限定で99円にしたり。丸善ジュンク堂書店を傘下に置く大日本印刷系のhonto(ホント)でも、96時間限定で最大99%オフのセールを行うなどした。

 ブラックフライデーに限らず、電子書籍の販売サイトは毎日なんらかの形で特売を行っている。通常価格の半額以下、ときには9割引き近いこともある。果たしてそれで出版社に利益はあるのか疑問に思うが、電子書籍取次の関係者によると、総合的に見てプラスの効果が大きいそうだ。例えば上下巻本の上巻のみを特価にすると、通常価格の下巻の販売も促進される。ただし安くすればいいというものではなく、割引対象にする本の選び方、割引にする時期の選び方などにコツがあるという。セールス期間が終わると、価格は元に戻される。

 価格をコントロールしやすい電子書籍ならではのこととはいえ、価格を変化させることよって消費が刺激され需要が喚起されるという事実は、紙の書籍・雑誌にも参考になるだろう。価格拘束する期間を限定する時限再販の大幅導入など、本を売るためにできることはまだあるのではないだろうか。


 この欄は「海外出版事情」と隔週で掲載します。

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