手で触れられる旧世界への哀惜 アンダーソン映画の深い楽しみ映画
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フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊=芝山幹郎
この人の発想は無尽なのか。発明精神にも限りがないのか。どこまで趣味がよく、どこまで技が豊かで、どこまで奇想に恵まれているのか。
久生十蘭や谷崎潤一郎の小説とは異なる味わいだが、ウェス・アンダーソンの映画に触れるたび、私は繰り返し感嘆する。
手で触れられる物への愛着と旧世界への哀惜。このふたつは彼の映画の通奏低音だ。「ザ・ロイヤル・テネンバウムズ」(2001年)から「グランド・ブダペスト・ホテル」(14年)に至る系譜を引くまでもなく、彼の映画は眼と耳に楽しい。心躍る色彩の饗宴を陰翳豊かな演技で縁取りし、観客をアンダーソン・ワールドにかどわかしていく。
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週刊エコノミスト
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