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中国製EVが大進化 高級車も格安車も世界へ輸出=湯進
中国は世界標準へ 全価格帯でEVの完成度向上 新興も大手も輸出を急拡大=湯進
世界の自動車メーカーにとって「難攻不落の市場」と呼ばれてきた日本にも、中国製の電気自動車(EV)が浸透しはじめている。経済産業省は2021年11月、中国のEVメーカー、BYDの「e6」を中国ブランドとしては初めて「CVE補助金(経済産業省・クリーンエネルギー自動車補助事業)」の対象として認めた。中国の大手、第一汽車も22年夏に日本にEVを投入する予定だ。足元では商用目的で中国製EVを輸入する日本企業が増えている。
欧州でも、中国製の高級EVを輸入する動きがある。中国企業は自動車業界の電動化の潮流に乗り、海外進出を加速している。産業サプライチェーンの育成やコネクテッド・自動運転機能を備えた車両の登場で、中国製EVのグローバル競争力は確実に向上している。
テスラに匹敵する3社
中国のEV市場は、20年にトレンドが変わった。
それ以前は、EVといっても配車サービスカーやタクシーなど営業車向けのエンジン車モデルを電動化しただけのクルマが大半。充電インフラの未整備、低品質のバッテリー、といった課題で販売が伸び悩んでいた。
これを変えたのが価格30万元(約540万円)以上の「中大型・高級EVブーム」だ。火付け役は米テスラが上海市の自社工場ギガファクトリーで生産し始めた「モデル3」。さらに新興EVの代表格である3社、上海蔚来汽車(NIO)、小鵬汽車、理想汽車も新モデルを投入した。いずれも、ソフトウエアと通信機器を搭載し、自動運転やエンターテインメントなどの機能を使いやすくしたスマートカーだ。その完成度は高く、3社には「欧州車や日本車とも競い合える」という自信が見える。
例えば、目的地や娯楽・情報サービスの案内は、車載AI(人工知能)が会話しながら教えてくれる。運転席での操作もスマートフォンと連動している。3社の21年1~11月の販売台数合計は前年比3倍の約24万台となり、テスラの中国販売台数に匹敵する規模だ。
中間価格帯の大衆向けEV市場を開拓しようとする戦略がうかがえるのが、中国の自動車大手だ。広州汽車傘下の広汽埃安新能源汽車は、21年11月の広州モーターショーで、EVで世界初となる航続距離1000キロ超の高級モデル「アイオンLX」を公開した。航続距離を伸ばすために電池搭載量を増やすのではなく、高いエネルギー密度を維持できる小型電池技術を開発。消費者が最も気にする航続距離を改善した。
低価格・小型EV市場は、上汽通用五菱汽車(上海汽車、米GMが出資)が投入した50万円程度の小型EV「宏光MINI」が中国のEV販売台数でトップをひた走る。最高時速100キロの4人乗りで、家庭用コンセントから充電できる。安全装備は切り詰め、エアコンもオプションだ。中価格帯にも手が届かなかった低所得層にとって格安EVは新たな選択肢だ。
中国政府は20年7月から農村部でのEV普及を目指す「新エネ車下郷」と呼ぶキャンペーンを打ち出し、EVメーカーに農村市場の開拓を奨励している。
欧州でSUVが人気
中国の格安EVメーカーは、その安さに着目した佐川急便やSBSホールディングスなどの日本物流大手に商用EVを輸出し始めている。高級EVメーカーはEVの主戦場である欧州市場の開拓に力を入れている。
中国の新エネルギー車(NEV)の輸出台数は、中国国内・外資系を含めて21年に50万台に達した。輸出全体に占めるNEVの割合も18年の13%から24%に拡大するとみられる。特に欧州向けの輸出台数が急増した(図)。
欧州ではEVの購入補助金制度や、自動車メーカーに対する二酸化炭素(CO2)排出規制が導入されているため、中国製EVは相次いで欧州に上陸し、EVの対応車種がまだ少ない欧州メーカーの間隙(かんげき)を突こうとしている。
特に新興EVメーカーは欧州でも人気の高いスポーツタイプ多目的車(SUV)モデルの輸出に注力している。小鵬汽車は20年末に「G3i」をノルウェーで市販し、NIOは21年にノルウェーの首都オスロにサービスセンター、直営販売店、EV充電施設を設け「ES8」を9月末に発売した。
大手では上海汽車が「MG」ブランドのSUV「eZS」、「MAXUS」ブランドの商用車を投入。BYDは21年にノルウェーで「唐」を発売した。東風汽車傘下の高級ブランド「嵐図汽車」、長城汽車傘下の小型ブランド「ORA」も欧州市場に進出した。
国内市場の需要増加や輸出拡大により、中国のNEV販売台数は15年の33万台から21年の350万台超に急伸し、世界全体EV販売の5割強を占めている。また、ガソリン車やハイブリッド車も含めた中国の全新車販売に占めるNEVの割合は15年の1・3%から21年の13%に上昇した。
中国工業情報省は21年7月、自動車産業の主要分野を取り上げ、標準化体系の早期確立を図る一方、中国標準の「海外進出」を積極的に支援する姿勢を示した。
中国メーカーが格安から高級モデルまで「業界標準」を確立すれば、部品産業も成長が期待できる。電池などの基幹部品を低価格で量産しやすくなることに加え、巨大な国内市場、通信網の整備とスマートフォンの普及、貴金属資源の保有、部品・部材産業集積などの面で日米欧を圧倒する条件が整う。
車載電池、自動運転、制御システムおよびソフトを手掛ける次世代自動車産業のメガサプライヤー、モビリティーサービスを提供するプラットフォーマーが次々と登場することも推測される。順調に進めば中国は「世界のEV生産工場」としてスマートカーを送り出し、30年には中国メーカーのEVが世界中を走り回る時代が来そうだ。
(湯進・みずほ銀行法人推進部主任研究員)