若い世代を読書に誘うTikTokの影響力=永江朗
若者を読書に誘うTikTok
昨年の暮れ、著名な書評家が、短い動画を掲載するSNSアプリ「TikTok(ティックトック)」で取り上げられた本が売れる現象についてネットで、「そんなずさんな紹介で売れたからどうした」と揶揄(やゆ)したところ、たちまち炎上して謝罪に追い込まれる騒動があった。出版界でTikTokは重要な販売促進ツールになりつつある。
大日本印刷が丸善ジュンク堂書店、文教堂書店、トゥ・ディファクトと共同で運営するハイブリッド型書店honto(ホント)によるランキングが、1月6日に発表された。民法改正による成人年齢引き下げに合わせ、18歳と20歳の書籍購買動向を比較したもので、集計期間は2020年12月1日〜21年11月30日。ジャンル総合ランキングでは、20歳の1位から3位までがコミック『呪術廻戦』の独占だったのに対して、18歳は学習参考書の『速読英熟語』『漢文早覚え速答法』『古文上達』。受験勉強真っただ中の18歳と、それが一段落した20歳ではこんなにも違うのかと驚く。だが、もっと驚いたのはTikTokの影響の大きさだ。
文庫ランキング、18歳1位の『桜のような僕の恋人』は、TikTokの投稿で紹介されたのをきっかけにヒットした作品。同書は20歳でも4位に入っている。そのほかにも『余命3000文字』『余命10年』という、やはりTikTokで話題になった文庫がランクインしている。また、ユーチューバー(動画サイト「YouTube」で発信する人)も影響力がある。ノンフィクションのランキングでは、5人組のユーチューバー「コムドット」のリーダー、やまとによるエッセイ『聖域』が、20歳の3位、18歳の1位になっている。TikTokやYouTubeは若者にとって欠かせないメディアであると同時に、読書への入り口にもなっているのだ。
筆者は日ごろ書評の執筆もしているが、これらの本は未読であるだけでなく、意識したこともない。書店に行っても視界に入らなかった。大いなるギャップを感じる。
もっとも、ランキングには太宰治『人間失格』や夏目漱石『こころ』も入っていて、いささかほっとするのでもあるが。
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