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教養・歴史 書評

株主とは何者か? 会社法のあるべき姿は? 議論巻き起こす問題の書=評者・平山賢一

『会社法は誰のためにあるのか 人間復興の会社法理』 評者・平山賢一

著者 上村達男(早稲田大学名誉教授) 岩波書店 3190円

財産権か議決権か 株主の正当性論議する問題の書

 本書は、ほとばしる情熱と使命感の下、会社法の「あるべき姿」を問い、現状追認からの飛躍を促す論争含みの書である。株式における議決権を財産権と峻別(しゅんべつ)し、「株式というモノを配当や株価のような財産権を中心に見るのか、議決権のようなデモクラシー関与権を中心に見るのかという本質的な問題」を提起する。

 会社法の世界に立ち入り難かった読者にとっても、わが国の「新しい資本主義」を考える上で避けては通れないテーマでもあり、興味の湧くところ。株主は「株式の」所有者だが、「会社の」所有者とはいえないとする著者の指摘は、近年の株主価値最大化を標榜(ひょうぼう)する「行き過ぎた資本主義」や、地球レベルにまで拡散した「貧富の格差」に対する解決策のヒントになるかもしれない。

 ところで、近年、コーポレートガバナンス(企業統治)・コードやスチュワードシップ・コード(機関投資家の行動規範)の議論が盛り上がっている。あえてこれらに着目して本書を読み進むと、「機関投資家」というキーワードが浮かび上がってくる。機関投資家とは、一般には巨額資金を運用している信託銀行や資産運用会社を指し、上場企業の大株主になっていることが多い。著者は、機関投資家について「厳格な受託者責任を不特定多数の個人や市民に対して負っている場合」に限っては株主として議決権を行使する正当性の根拠になるとしている。

 一方、人間のにおいのしないヘッジファンド株主や超高速取引による瞬間株主については、特定少数の大資産家に対する受託者責任しか負わないため「人間関与度」が低く、株主としての正当性は低いとする。この株主の峻別こそ本書の特筆点だ。

 だが、前者の機関投資家であっても、株価指数などに連動する運用を行うパッシブ運用については、「議決権を行使しうるとの立場をひたすら利益追求のための手段として利用しようとする」ものとし、株主の属性に疑問ありとしている。個別企業を選別せず効率的な運営に徹し、議決権行使に無関心であるため、会社法が想定する真摯(しんし)な議決権行使に結びつかないと考えているからである。

 この主張には、実務家から相当数の批判があるかもしれない。パッシブ運用を主軸にする機関投資家にあっては、従業員、消費者、地域住民といった立場から「人間関与度」の高い議決権行使が避けられなくなっている。日本銀行がETF(上場投資信託、パッシブ運用)を巨額保有する在り方も、この視点から再検討すべきとの思いを強くさせる書でもある。

(平山賢一・東京海上アセットマネジメント執行役員運用本部長)


 上村達男(うえむら・たつお) 1948年生。早稲田大学法学部・同大学院後期博士課程修了。早稲田大学法学部長、NHK経営委員などを歴任後に現職。専門は商法、金融商品取引法、資本市場法。著書に『会社法改革』など。

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