三菱UFJ信託や野村HD、デジタル証券のプラットフォームで覇権競う
デジタル証券の市場を支えるブロックチェーン(分散型台帳技術)。ビットコインなど暗号資産(仮想通貨)の取引で参加者同士が取引を承認し合うのと同様の仕組みで成り立っている。市場拡大をにらみ、国内の金融大手やIT(情報技術)企業が企業連合(コンソーシアム)を組んでブロックチェーン技術の開発を続々と進めている。現在主流の2つのシステムを取材した。(>>>デジタル証券 特集はこちら)
ひとつは、三菱UFJ信託銀行が中心のProgmat(プログマ)だ。プログマは、航空機、船舶、人工衛星など、これまで投資対象として小口化するのが難しかった権利をデジタル証券(セキュリティ・トークン)化して個人投資家に提供を可能にするプラットフォームだ。有価証券を紙ではなくデジタルデータにし、ブロックチェーンで管理することで、発行から流通、決済までを、ほぼ自動で行うことができる。
これまでの証券取引では発行者、資産管理者、売買仲介業者など複数の関係者がそれぞれ独自のシステムで取引を管理しているため、連携させるためのコストや人手がかかっていた。また、すべての手続きを済ませるのに一定の時間を要するので、証券の売買から実際の資金移動まで数日かかることも珍しくない。
プログマは、こうした点を解消し、取引のコストを下げて投資対象を拡大するのに役立つ。現在は不動産を裏付け資産とするものが中心だが、これからは他の分野でもデジタル証券化が進むとみられる。
三菱UFJ信託銀行デジタル企画室の西村通芳シニアプロダクトマネジャーはプログマのメリットを「さまざまな投資対象が小口化されることで、今まで市場に参加していなかった多様な投資家を呼び込むことが可能になる」と語る。
スタジアムを小口所有
たとえば、不動産を小口化した金融商品にはJリートがあるが、投資家が求めるのは利回りだ。一方でプログマでは特定の不動産を小口化することもできるので、仮にサッカーや野球のスタジアムを小口化した場合、投資家は利回りと同時に「スタジアムを保有している」という所有欲を満たすことができる。利回りだけでなく「応援したい」と考える投資家を呼び込めることになる。いわゆるファン・マーケティングだ。
三菱UFJ信託が中心となったデジタル証券の研究コンソーシアムには2月現在で国内84社の企業が参画しており、プラットフォームを活用したさまざまなデジタル証券の発行が検討されている。
さらに三菱UFJ信託はプログマの決済に利用できるデジタル通貨「プログマコイン」の発行を目指す。1コイン=1円で価値を固定し、円をベースとした信託財産を裏付けとするため換金の確実性が保証される。デジタル証券の決済にプログマコインを利用することで取引コストの低減が可能となる。将来的にはデジタル証券だけでなく、暗号資産やNFT(非代替性トークン >>>詳細はこちら)との相互取引にも利用範囲を広げる予定だ。
野村は仕様公開で普及図る
もう一つは、野村ホールディングス(HD)だ。野村HDや野村総研などが出資するIT企業、ブーストリー(東京都千代田区)は社債などの有価証券、人気レストランの会員権などをトークン化して発行、保有者が売買できるブロックチェーン「ibet(アイベット)」を開発している。
SBI証券が21年4月に発行した国内初の公募社債のデジタル証券は、アイベットのシステムをベースとし、保有額に応じて暗号資産(仮想通貨)を提供するなどの特典がある。
佐々木俊典社長はアイベットの狙いとして「非金銭的な価値を得る新しい投資体験を提供することが出来る」と語る。SMBC日興証券やSBI証券といった同業者もシステムに参加し、特定の金融グループの独占を回避する仕組みで、システム開発がオープンソース(仕様公開)になっていることも特徴としている。
ブロックチェーン技術によって、プログマ、アイベットがどんな投資商品を生み出していくのか、両社の腕の見せどころと言えそうだ。
(向山勇=ライター/構成=桑子かつ代・編集部)