教養・歴史書評

経営陣による買収「MBO」の効果は? 豊富な実例とデータで分析した真摯な研究所=評者・加護野忠男

『日本のマネジメント・バイアウト 機能と成果の実証分析』 評者・加護野忠男

著者 川本真哉(南山大学教授) 有斐閣 4840円

経営陣による自社買収手法 豊富な実例とデータで解説

 会社経営陣が株主から自社株を買い取るなどしてオーナーとなり、経営権を取得する手法を「マネジメント・バイアウト」(MBO)という。これが日本では、2000年代に入ってから金額、件数ともに増えている。本書は1996年から2019年までの971件に及ぶMBOが、どのような狙いのもとで行われてきたか、そしてどんな成果をもたらしたかについての真摯(しんし)な学術的研究である。

 著者はMBOを五つのタイプに分類する。(1)ダイベストメント型(法人の事業部門あるいは子会社の経営陣によって買収される)、(2)事業承継型(家族や創業者の運営する企業が事業継続を希望する内部者によって買収される)、(3)非公開化型(抜本的な経営改革や長期的視野への経営を目指して行われる買収)、(4)事業再生型(当該企業あるいは親会社が破綻しそうな場合に経営陣が買収)、(5)第2次バイアウト(集めた資金で業績不振の企業などに投資し、企業価値を高めてから転売、投資家に利益配分することを目的としたバイアウト・ファンドを使って経営陣が会社を買収)──である。

 本書は代表的な実例を見ながら分析を進めるが、そのテーマはさまざまだ。非公開化に至る動機の分析に充てた第1章を皮切りに、以下のようなテーマが考察の対象となる。MBO資金はどのように調達されるのか。どのような場合にバイアウト・ファンドが利用されるのか。MBOは、実際に企業の業績の改善をもたらしているのか。MBOでは経営陣が一般株主よりも優位な立場に立つことになるが、一般株主の利益を守るためにどのような担保措置が取られているのか。MBOが企業のリストラの手段となりうるのか、などなどである。

 これらは、MBOを真剣に考えている経営者が抱く疑問・課題であり、本書は豊富なデータをベースにした定量的分析でこれを解説しようとしている。だから当然、実践的価値を持っているが、分かりやすさよりも学術的正確性が追求されているため、少々難解であることは否めない。統計的方法や財務理論になじみのない読者には理解が困難かもしれない。しかしそれでも、特に難解な部分は飛ばしてでも検証結果のまとめは明快であり、要点は十分理解できる。

 筆者としては、MBOの可能性を考えている経営者自身よりも、ともにかかわることになるサポートスタッフにこそ、冷静な目で読んでほしい好著だと考える。

(加護野忠男・神戸大学特命教授)


 川本真哉(かわもと・しんや) 1977年生まれ。京都大学大学院経済学研究科博士後期課程単位取得退学。福井県立大学経済学部准教授などを経て現職。コーポレート・ガバナンス論、数量経済史が専門。

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