激戦の新書競争にマガジンハウスが参入したワケ=永江朗
「マガジンハウス新書」創刊のワケ
マガジンハウスが今年1月、「マガジンハウス新書」を創刊した。第1弾は五木寛之著『捨てない生きかた』と松浦弥太郎著『新100のきほん』。今後、奇数月に2点程度のペースで刊行していくという。
同社のサイトには〈雑誌のような発想で「新書」をつくりました! 知的好奇心を満たすコンテンツを、続々お届けします。〉との宣言が掲載されている。雑誌市場の縮小が続くなか、雑誌から書籍への主軸シフトを象徴しているよう。
マガジンハウスはその社名が示すように雑誌中心の出版社。戦後間もない1945年10月、岩堀喜之助と清水達夫が凡人社として創立。岩堀が清水に打った電文は「ザッシヲイッショニヤラナイカ」だった。雑誌『平凡』を創刊し、のちに社名を平凡出版に変更。『平凡』『週刊平凡』『平凡パンチ』と次々に創刊し、一つの時代を作った。70年代以降は『アンアン』『ポパイ』『クロワッサン』『ブルータス』などを創刊。83年に社名をマガジンハウスに改めた。雑誌が流行を追うのではなく、雑誌が流行を作る時代だった。
ただし、雑誌専業だったわけではなく、書籍でも『世界がもし100人の村だったら』(池田香代子著)や『漫画 君たちはどう生きるか』(吉野源三郎、羽賀翔一著)などのベストセラーを出してきた。文芸書や実用書、自己啓発書などでもヒットは多い。
もっとも、新書市場はすでに飽和状態になっている。中堅書店の新書売り場は岩波新書、中公新書、講談社現代新書の“御三家”に加え、ちくま新書、文春新書、光文社新書、集英社新書、新潮新書などが棚を確保し、その他多くの新書が残りの棚を奪い合うという構図だ。かつて新書はロングセラー中心のビジネスといわれたが、いまは売れ行きが鈍いと容赦なく返品・断裁される過酷なジャンルだ。
マガジンハウスは今回の創刊にあたって全国で約1000店の書店の棚を確保したといわれる。第1弾2点の売れ行きも好調で、ランキング上位に登場している。第2弾、第3弾と続けてヒットを出せれば、社名が「マガジン&ブックハウス」となる日も近いかも……。
この欄は「海外出版事情」と隔週で掲載します。