日本はどうする? 現実味帯びてきた危機に安全保障専門家が指針示唆=評者・近藤伸二
『台湾有事のシナリオ 日本の安全保障を検証する』 評者・近藤伸二
編著者 森本敏(拓殖大学顧問) 小原凡司(笹川平和財団上席研究員) ミネルヴァ書房 3850円
武力侵攻が現実味を帯びる 日本が取るべき危機対処とは
米インド太平洋軍のデービッドソン司令官が昨年3月、中国は6年以内に台湾に武力侵攻するだろうと警告して以来、台湾有事が現実味を帯びてきた。これをテーマにした書籍も多いが、本書は笹川平和財団安全保障研究グループの「日米同盟の在り方研究」プロジェクトとして、米ヘリテージ財団との議論なども踏まえ、冷静な分析に徹している。
軍事専門家が描くシナリオは明快だ。中国軍はミサイルや爆撃機で台湾の基地や総統府、国防部(省)、空港、鉄道などを破壊し、揚陸艦で上陸部隊を送り込む。台湾軍に加え、参戦した米軍機が空爆で反撃するが、壊滅させることはできず、上陸を許す。米本土からの来援部隊が到着し、中国軍と交戦するとともに、中国内陸部の基地を攻撃する──。
日本も「対岸の火事」ではない。最西端の沖縄県与那国島から台湾は約110キロメートルしか離れておらず、「南西諸島は中国海空軍による海上封鎖および航空封鎖の下に置かれる。日本の領土が中国の軍事的コントロール下に置かれることは日本の主権・領土の侵害であり、日本にとっての有事であるとも言える」からだ。
台湾の軍用機を在日米軍基地も含む日本の航空基地へ退避させようと、台湾や米国から要請されることもあり得る。受け入れると、日本の領土、領域は戦闘地域となり、安全保障関連法に基づいて、中国と武力を交える局面も生まれる。
ただし、実際には、各国の外交努力や経済的損失に対する判断などが影響するので、これは「可能性が低いと考えられる『戦闘に至るシナリオ』」である点には留意しなければならない。
とはいえ、危機管理の要諦は、最悪の事態を想定して備えておくことだ。本書は「政治判断を含めて平時からシミュレーションを重ねて、国家としての危機対処計画(案)を練り上げることが必要」と説く。
問題は、純然たる平時でも有事でもない「グレーゾーン事態」が起こる確率が高いことだ。「国籍を隠した不明部隊を用いた作戦、サイバー攻撃による通信・重要インフラの妨害、インターネットやメディアを通じた偽情報の流布」などが例示されているが、日本はこうした状況への対応も求められる。
反中感情も手伝い、台湾有事といえば、威勢のいい主張が幅を利かせがちだ。本書は安全保障専門家9人の手によるが、軍事面だけでなく、法的、外交的側面など幅広い観点から、台湾有事の本質と日本が直面する課題を浮かび上がらせている。
(近藤伸二・追手門学院大学教授)
森本敏(もりもと・さとし) 防衛大学校卒業後、航空自衛隊、外務省経て第11代防衛大臣を歴任。共著に『国家の危機管理』など。
小原凡司(おはら・ぼんじ) 筑波大学大学院地域研究研究科修了。慶応義塾大学SFC研究所上席所員も務める。