経済・企業

ウクライナ人の老科学者が日本育ちの孫に語る戦争の真実③88年の人生で4回の転機、キエフに残り世界に現状を伝える孫たちの行動には大きな意味

若いころの祖父のウラジミールさん(右)と祖母(ボグダンさん提供)
若いころの祖父のウラジミールさん(右)と祖母(ボグダンさん提供)

日本育ちでウクライナのキエフから戦禍を伝えるボグダン・パルホメンコさんが、科学者の祖父ウラジミールさんから戦争の真実を聞く。第3回目。

ボグダンさん:

 日本では、東日本大震災以降、「絆」ということばがつかわれるようになりました。震災は、愛する家族がいつ亡くなるかわからないという現実を私たちに突きつけました。

 おじいちゃんは、家族の「絆」をどのように考え、日々、過ごしていますか?

家系はレニングラードとモスクワに、家族同士で戦っている

ウラジミールさん:

 1995年の神戸の震災以降、私たちの家族には日本人の知り合いが増えました。私の奥さんはその人たちに会いに日本に7、8回行ったし、日本からウクライナを訪れた人もたくさんいました。

 その時に、ホテルに泊まった人もいたけど、私のマンションに泊まった人も多いんです。いま、戦争が起こって、その人たちから、「何かできることはありますか?」と連絡があります。

 そんな絆、愛情、ささえあいを、毎日感じて感謝しています。

 311の震災のときには「日本のみなさんのために、私は何ができるかな」と考えた。今日は逆のポジション。みんなからの応援を受けてる。私は、近いうちにこの暴挙は終わると信じています。私はいまのこの戦争の状況が信じられません。

 なぜなら、じつは私たち、家族どうしで戦っているんです。私の妻の家系はレニングラードにいます。息子の家系はモスクワに。

孫たちは変化した後の世界で、今の経験を誇りに思うだろう

 さっきも言いましたが、こういう状況は、新しい人類が誕生するために起きているのかもしれない。変化後の新しい世界に、ぼくは立ち会えないかもしれないけれど。

 私の孫たちは、将来、変化したあとの世界でいま経験していることを誇りに感じるだろう。

 今回の戦争という状況のおかげ、というか、その影響で、私たちはお互いに愛情を深め合うことができた。いま、キエフに残っている人は、全員ボランティアをしている。助け合いの精神ができている。そのおかげでやっていけている。

キエフに残り、世界に現状を伝える孫たちの行動には大きな意味がある

 ボグダンありがとう。大阪生まれのステファンにも、ありがとうと言いたい。

 キエフに残り、キエフにいる人々を支え、キエフの現状を世界に伝えている彼らの行動は、大きな意味がある。私がいまこうして日本のみなさんに話せるのも孫たちのおかげです。

 いまのこの状況は、世代間の絆も育てていると思う。孫たちにとっては最初の戦争だけれど、私にとっては、ふたつ目の戦争。私たちの世代に新しい世代がジョイントしてくれて、世界を変えようとしてくれている。ありがとう。

 そして、日本のみなさんが、私たちを熱心にサポートしているのをニュースでもみていますし、強く感じています。

 ありがとう。

88年の人生で、大きな方向転換が4回あった

 今回の変化は非常に大きく、これについていくのは大変だと思う。私自身、88年の人生で、大きな方向転換が4回あった。変えたいからじゃなくて、状況によって変えざるを得なかった。ぼくが過去に4回適応したように、孫の世代が速いスピードで成長し、変化に適応しているのを見て誇りに感じています。

 いま、世界は、金銭的労働主義のもと、ファイナンスが全体を支配している。ものすごくがんばって働かないと何も手に入らない。でも、それがだんだんと変わってきて、現状では、「インテリジェンス60:労働40」くらいにシフトしてきていると思う。

 日本でも、このシフトを実現している企業は成功している。世界全体がシフトしていることを示すいい例だと思う。現実の流れを否定するのではなく、適応して前進し、しかも進歩している企業たち。それにたいして感謝を伝えたい。

物欲主義から精神主義へのシフトがまだまだ足りない

 人類は、こんなふうな変化は、できればやりたくないのかもしれない。でも宇宙はシフトしていく段階にあって人間をそう仕向けていると私は思う。

 私がこの戦争の前からずっと考えていたのは、物欲主義から精神主義へどうやってシフトするかということ。まだまだそれが足りないと思っていましたから。

 例を挙げて話してみます。

 たとえば「重力」。りんごは地面に落ちます。これは、大きいものに小さいものが引きつけられるという法則のせいです。

 地球からロケットを飛ばすのには、ものすごいパワーが必要です。なぜなら、すごく大きい地球にちいさいロケットが引っ張られてくっついているわけだから、その地球から離れて飛ぶためにはものすごいパワーが必要なわけです。

 科学の研究は、物質を扱って、研究することができます。観察したり実験して見せたりもできる。でも、精神的なものは、どうやって見せたらいいか、わからない。私は科学者ですから、物質のことを説明するのは得意だけど、精神的なものをどうやって見せたらいいかは、よくわからない。自分で触れられないものを、どうやって感じたらいいんだろう。こういうものを人間が理解するのは大変です。

人間も音叉と一緒、いいものはいいものと、悪いものは悪いものと共鳴する

 私は「音叉」をよく実験で使います。音叉を鳴らすと、周りにある音叉が共鳴します。ひとつの音叉を打つと、まわりの音叉が全部その周波数になる。人間も一緒。いいものはいいものと共鳴する。悪いものは、悪いものと共鳴する。

 自分がポジティブな発信をすると、自分と同じようなものが集まってポジティブな変化をひきおこす。ネガティブならネガティブで同じことが起きる。これも「共鳴」だと私は思います。

 また、「種をまいて収穫する」という言い回しもよくつかいます。よいタネをまけば、よい収穫がある。悪いタネをまけば、悪い収穫がある。とうもろこしのタネをまいても、小麦にはならない。自分がネガティブなことをやれば、自分にネガティブなものが集まってくる。

 だから、いま、ボグダンがポジティブにフォーカスしてみんなに発信しているのはとてもよいことです。それに共感して集まってくれる人がかならずいるはずです。彼らもかなり疲れてると思うけれど(笑)。

(④に続く)

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