「女性を応援する書店」で知られた日比谷コテージ閉店の衝撃=永江朗
「女性を応援」、日比谷コテージ閉店の衝撃=永江朗
コロナ第6波に“巣ごもり需要”の特需はなかったようで、書店が減り続けている。2022年に入って有名店の閉店が相次いだ。
明屋(はるや)書店は中野ブロードウェイ(東京・中野)をはじめ全国に約80店の直営店・FC店を展開するチェーン店だが、1946年に愛媛県松山市で開業した古書店が始まり。翌年から新刊書を扱うようになった。その松山本店が2月20日で閉店した。
2月28日にはフランス語書籍専門店の欧明社(東京・飯田橋)が閉店した。1947年の創業以来、フランス語学習者やフランス語圏の在日外国人に愛されてきた。名付け親は仏文学者・渡辺一夫氏だった。
筆者が驚いたのは東京・日比谷のHMV&BOOKS HIBIYACOTTAGE(以下、日比谷コテージ)の閉店だ。2018年、日比谷シャンテ内に開店した同店は「すべての女性を応援する本屋」をコンセプトに、女性を対象にした商品構成がユニークだった。東京宝塚劇場のすぐ近くにあり、宝塚歌劇団に関する書籍・雑誌が充実していた。しかし、2月13日、開店から4年足らずで閉店した。
日比谷コテージの特徴はコンセプトや品ぞろえだけではなかった。店長の花田菜々子さんは出版業界でよく知られた人。ヴィレッジヴァンガードや二子玉川蔦屋家電、パン屋の本屋など、話題の店で独特のセンスを発揮してきた。エッセー『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』(河出文庫)はベストセラーになった。
花田店長とともに日比谷コテージを盛り上げたのが新井見枝香さんだ。三省堂書店に勤務していたとき文学賞「新井賞」を創設して主催するなど独特の活動を開始。日比谷コテージに移籍してからも、踊り子として劇場に出演するなどしてきた。
花田さんと新井さんはトークイベントやブックフェアなどを連発して店舗の活性化につとめた。SNSなどネットでの発信も熱心だった。それでも日比谷コテージを継続することはできなかった。書店の減少に歯止めがきかない。このまま全滅するまで閉店が続くのではないかと思うと恐ろしくなる。
この欄は「海外出版事情」と隔週で掲載します。