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教養・歴史書評

まるで戦時下の翼賛体制? 官民協働による文化工作に警鐘鳴らす=評者・近藤伸二

『大東亜共栄圏のクールジャパン 「協働」する文化工作』 評者・近藤伸二

著者 大塚英志(国際日本文化研究センター教授) 集英社新書 1034円

 SNS(交流サイト)の普及で、多くのフォロワーを抱えた発信力のある人物が、社会に強い影響力を持つようになった。そのような人々の主張がメディアを巻き込んで、さらに広がっていく。

 今ではごく普通に見られる光景だが、著者の分析によると、こうした現象は、戦時下で国民統合団体の大政翼賛会が漫画やアニメーション、映画、小説などを介して行った宣伝工作に起源がある。そして、「『文化工作』がどこにでもある日常が復興している」と警鐘を鳴らす。

 翼賛会による工作の一例として、1941年の日米開戦日「十二月八日」をタイトルやモチーフにして、太宰治の短編をはじめ多くの小説や詩、歌などが生み出されたケースを検証している。

 一つひとつは必ずしも戦争を礼賛しているわけではないのだが、翼賛会は「十二月八日」の統一フォントづくりを主導し、報道機関や広告業界に配布した。そんな官民の「協働」により、「そこで反復される一つのワードや表象が『どこにでもある』という状況をつくり出す」のである。

 著者は、権力者の言葉が直接大衆に届くSNSは、戦時下の官民協働と親和性が高いと指摘し、「元首相が隣国との『歴史戦』を煽(あお)り、報道機関が呼応しSNS上の投稿へと拡大していくさまは文化工作の『協働』そのものである」と断じる。

 さらに、戦時下の文化工作は、一般の人が自ら投稿したり、演劇を上演したりするなど「全員参加型」だった点に着目する必要がある。それによって、国家総動員体制を後押ししようとしたのである。

 その目的を達成するため、アマチュア作家の育成が奨励された。外地では特に漫画が重視され、『のらくろ』シリーズの作者として知られる田河水泡は、拓務省の要請で満州の満蒙開拓青少年義勇軍訓練所を訪問し、漫画の描き方を指導している。

 そうした動きを通して、作家たちはプロパガンダに協力させられていった。手塚治虫は『火の鳥』など戦争を扱った作品で平和を訴えるメッセージを多く発しているが、ある座談会で、翼賛会が版権を持つ『翼賛一家』(戦時中の模範的家族像を複数の漫画家に描かせたもの)のキャラクターを登場させた漫画を描いたと打ち明けている(現物は未発見)。

 米国のトランプ大統領支持者に陰謀論が浸透したのも、SNSによる協働の構造があったからだ。日本の漫画やアニメなどの「クールジャパン」も、お上の思惑次第で政治の道具となる危険性が常にある。

(近藤伸二・ジャーナリスト)


 大塚英志(おおつか・えいじ) 1958年生まれ。批評家、漫画原作者。著書に『物語消費論』『大政翼賛会のメディアミックス』、漫画原作に『黒鷺死体宅配便』『恋する民俗学者』など。

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