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教養・歴史 書評

EUへの模索と国家間の摩擦。複雑な欧州史を解説=評者・藤好陽太郎

『ヨーロッパの政治経済・入門[新版]』 評者・藤好陽太郎

編者 森井裕一(東京大学大学院教授) 有斐閣 2970円

停滞と前進を繰り返す共同体

仏独を軸に平易に描き出す

 戦後の欧州統合は、仏独に二度と戦争をさせない不戦共同体として始まった。「欧州統合の父」と言われるフランスのジャン・モネが起草し、シューマン仏外相が公表した欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)は「歴史上初めての超国家性をもつ組織となり、現在の欧州連合(EU)の直接の前身となった」。フランスを勝利に導いたシャルル・ド・ゴールも第二次大戦後、大統領に就任すると、統合を進める。欧州統合はフランス主導で進んできたのだ。

 本書は、戦後の欧州主要国の政治や経済統合から安全保障まで、分かりやすく解説する。英国のチャーチルも戦後「欧州合衆国」を打ち出したことなど筆致は具体的だ。英国は英連邦や米国を重んじ、当初欧州統合には加わらなかった。しかし、自国の成長が低迷すると、一転して欧州経済共同体(EEC)に加盟申請する。これを二度にわたり拒否したのが、ド・ゴールである。

 ド・ゴールは戦中、ロンドンから、仏国民にドイツへの徹底抗戦を呼びかける。実はチャーチルらと協議、英仏合邦案が合意寸前に至ったこともある。両者傲岸のせいか、時に罵(ののし)り合いになった。米国のルーズベルト大統領からは、勝手にフラン紙幣を準備されたり、ノルマンディー上陸作戦の日程を隠されたりした。こうした“屈辱”は、英国の加盟を10年以上拒否する伏線となったろう。

 もう一方の主役はドイツだ。フランス主導の統合の成功は「西ドイツの戦後の欧州政策とうまく噛み合ったからである」。ドイツはフランスを前面に立てながら、国際社会に復帰する。だが、仏独さえ一枚岩とは言い切れない。ここ数年マクロン仏大統領が唱えるEUの深化をドイツは袖にしてきた。欧州全体でも、統合は停滞と前進を繰り返す。ユーロ危機の後にはEUからの離脱ドミノさえ危惧された。それでも、EUは新型コロナウイルス禍からの「復興基金」をまとめ、初の共通債券の発行を決めた。ロシアのウクライナ侵攻というさらなる危機は、慎重だったドイツを含め加盟国に軍事費の増額を決断させる。危機は結束を生んだ。

 今年4月にマクロン氏は、仏大統領選で極右ルペン氏を破り再選された。メルケル独首相が退任し、盟主を失ったEUだが、財政統合や安全保障での戦略的な自立で、フランスは再びEUをけん引できるだろうか。

 EUとウクライナの関係の経緯や軍事侵攻にも触れ、各章にはコラムと、さらに読むべき文献も掲載している。欧州や世界情勢を読み解くうえで、優れた手引きになりそうだ。

(藤好陽太郎・追手門学院大学教授)


 森井裕一(もりい・ゆういち) 上智大学外国語学部ドイツ語学科卒業後、東京大学大学院総合文化研究科国際関係論専攻修士課程修了。筑波大学国際総合学部専任講師などを経て現職。著書に『現代ドイツの外交と政治』など。

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