ウクライナ、ロシア関連本が活況=永江朗
相次ぐ刊行、再注目の既刊本
ロシアによるウクライナ侵略が始まって以来、ウクライナやロシアに関連した書籍の刊行が続いている。特設のコーナーに関連書を並べる書店も多い。ウクライナの歴史や軍事面から見たロシアについての本から、フィクションやウクライナ民話の絵本まで、さまざまな本が集められている。ベストセラーリストにもランクインする本が多数あり、関心の高さをうかがえる。
最初に注目されたのは『物語 ウクライナの歴史 ヨーロッパ最後の大国』(黒川祐次著)だった。元駐ウクライナ大使によるこの本が中公新書の一冊として刊行されたのは2002年。ウクライナという国の特殊性や音楽や文学など文化の豊かさについて、この本を読んで初めて知ったのは筆者だけではないだろう。
スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチの『戦争は女の顔をしていない』は、15年に著者がノーベル文学賞を受賞した時にも注目された(単行本は08年に群像社、16年に岩波現代文庫版刊行)。第二次世界大戦に従軍した女性の声を集めた作品で、小梅けいとによる同作のコミック版もKADOKAWAから刊行中だ。
軍事面では真野森作『ルポ プーチンの戦争 「皇帝」はなぜウクライナを狙ったのか』(筑摩選書)が18年に、その後21年に小泉悠『現代ロシアの軍事戦略』(ちくま新書)と廣瀬陽子『ハイブリッド戦争 ロシアの新しい国家戦略』(講談社現代新書)が出ている。ロシアによるクリミアの併合が起きたのは14年。プーチン大統領のロシアがいかに危険であるかは、今回の侵略以前から識者によって指摘されていたわけである。
今年の本屋大賞には逢坂冬馬『同志少女よ、敵を撃て』(早川書房)が選ばれた。第二次世界大戦におけるソ連軍女性狙撃兵を描いたエンターテインメント小説だが、逢坂の受賞スピーチには嘆きや怒り、そしてウクライナ市民への連帯が込められていた。
とはいえ、筆者はいささか釈然としない気持ちだ。悲惨な状況にあるのはウクライナだけではないからだ。シリアでもミャンマーでもパレスチナでもひどいことが続いている。ウクライナ以外の不条理にも、もっと目を向けるべきではないか。
この欄は「海外出版事情」と隔週で掲載します。