経済・企業SDGs最前線

日本自動ドア、木製ドアでCO2を大幅削減――障がい者や子供に優しいバリアフリー製品も開発

日本自動ドアの吉原二郎社長
日本自動ドアの吉原二郎社長

 国連が2015年に採択した、17の目標から成るSDGs(持続可能な開発目標)。世界の企業の間で、社会課題を解決し、持続可能な社会を目指すSDGsを成長戦略の柱として取り込む動きが広まっている。エコノミストオンラインの新連載「SDGs最前線」では日本でSDGsを実践し、実際にビジネスに活かしている企業を取り上げていく。第1回目は、自動ドアや防犯関連の事業を手掛ける日本自動ドア(東京・中野)を紹介する。

【日本自動ドアが実践するSDGsの目標】

・目標3「すべての人に健康と福祉を」・目標11「住み続けられるまちづくりを」・目標12「つくる責任 つかう責任」・目標13「気候変動に具体的な対策を」・目標15「陸の豊かさも守ろう」

加工時のCO2を大幅削減

 「自動ドアの事業を通じて、省エネルギーなど社会が抱える課題を解決する」――。日本自動ドアの吉原二郎社長は言葉に力を込める。同社は昨年10月、木製自動ドア「セルヴァンス(Selvans)」の販売を始めた。自然の木材を材料に使い、加工時のCO2(二酸化炭素)を大幅に削減できる独自開発の自動ドアだ。

 通常、自動ドアの枠はアルミニウムやステンレスで作られており、加工のために金属を高炉で溶かす必要がある。製造工程でたくさんのエネルギーを使うため、大量のCO2を排出してしまう。一方、木材は金属のように溶かす必要がない上、森林で吸収したCO2を貯蔵し続けることができる。木材は加工後もCO2を吸収し続けるとの見方もあり、SDGsに大きく貢献するという。

甲府市の老舗和菓子店が採用

 セルヴァンスは杉やヒノキなどが素材のため、自然の木目が美しい。値段は1台150万円程度と必ずしも安くはないが、10月の発売以降、取り合わせが相次いでいる。早速、山梨県甲府市の老舗和菓子店「石坂屋」が採用した。和菓子のイメージに合い、評判は上々という。自動ドアは工業製品の代表格の一つといわれるが、吉原社長は「木材を使うことで工芸品の息を吹き込み、他社との差別化や『脱・工業製品』を図る」と意気込む。

石坂屋が採用した木製自動ドア(山梨県甲府市の石坂屋)
石坂屋が採用した木製自動ドア(山梨県甲府市の石坂屋)

所有する山の木材使い「地産地消」

 セルヴァンスのもう一つの特徴は、利用する木材を、同社自身が保有する埼玉県・飯能市の山林から切り出していることだ。先代社長が工場を建設するために山ごと工場用地を購入した。材料の仕入れから製造・販売まで一気通貫で実施することにより、流通コストを削減できる。

 飯能市周辺で生産される木材は、江戸時代から「(江戸の)西の川から送られてくる良質な木材(西川材)」などと呼ばれてきた。この西川材を使って製品を作り、関東地方の顧客に提供することで「地産地消」を実現。流通コストも削減できる。同社は更に、全国各地で山を買い取るなどして、原材料調達の多様化を目指している。

特殊モーター採用し挟まれても安全な自動ドア

 同社が省エネやバリアフリーなどSDGsに適合する商品を独自開発したのは、これが初めてではない。例えば、ちょっとした人の接触で開き、子供や障がい者らが挟まれても安全な自動ドア「ハイブリッド引戸クローザ」だ。挟み込みの衝撃が直接伝わる特殊なモーターを採用し、モノが挟まったらすぐにドアが開く。万が一、ドアに挟まれたとしても、その強さは風船でも割れない程度だ。ドアは通常よりも軽いため、停電時に子どもでも無理なく開け閉めできる長所もある。

 こうした「人や環境にやさしい」商品の開発は、他社との差別化を通じた競争力向上に役立つが、それだけではない。「『温かみを持った会社』という良いイメージを持ってもらえるようになる」(吉原社長)。少子・高齢化を背景に人手不足が問題になる中、企業イメージを向上させれば、有能な人材の採用や流出防止につながり、一石二鳥というわけだ。

木製の自動ドアは和菓子の「和」の雰囲気に合うと好評(山梨県甲府市の石坂屋)
木製の自動ドアは和菓子の「和」の雰囲気に合うと好評(山梨県甲府市の石坂屋)

新型コロナなどの感染症防止にも効果

 あまり知られていないが、自動ドアはもともとSDGsに適した面をいくつも持っている。例えば障害者に配慮した「バリアフリー」の分野だ。健常者にとっては何でもない「ドアノブを引いてドアを開けたり、閉めたりする」という動き自体が、障害者にとって非常に高いハードルになることがある。

 吉原社長は障害者団体などに話を何度も聞きに行き、商品開発の参考にしたという。特に、「下半身が麻痺している方や脊髄を損傷している人はドアの開閉が難しい」「手がドアノブまで届かない」などといった話を直接聞くことができた。こうした経験が、軽いタッチでも開く自動ドアの開発につながった。

 新型コロナウイルスの感染拡大を受けて注目されているのが、非接触の自動ドアによる「感染症対策」だ。「通常の生活で最も触れる回数の多いのがドアノブ」という調査もある。多くの人たちが、ウイルスや細菌で汚染されているドアノブに触れると、感染が拡大しやすくなる。開閉に手を触れずにすむ自動ドアは、感染症予防に有効だという。

全国30カ所の拠点で故障などにすぐ対応

 明治学院大学の非常勤講師である佐藤裕太氏は、日本自動ドアについて「社会情勢や地球環境など世の中に広くアンテナを張って、自社のリソースを有効活用して社会課題の解決に貢献しようとしている」と見る。

 取引先である窓の専門商社、マテックス(東京・豊島)の松本浩志社長は「自動ドアはメンテナンスやアフターサービスこそが大事」と指摘。「日本自動ドアは業界では珍しく、全国各地に直営の営業拠点を置き、故障など何かあったときにすぐに対応してくれる」と語る。SDGsは「目標12」で「つくる責任、つかう責任」をうたっている。日本自動ドアが全国に巡らせた約30の拠点網からは、「販売した商品を長く大切にし、つくる責任を果たす」という経営理念が垣間見える。

 帝国データバンクの21年の調査によると、「SDGsに積極的」な企業は、前年比15.3ポイント上昇の39.7%に達した。しかし、規模別にみると「中小企業」で積極的な企業は36.6%にとどまり、大企業(55.1%)を18.5ポイントも下回っている。中小のSDGsへの意識はなお低く、対策は不足しているといえそうだ。

モーターを使わない自動ドアも開発中

 大坂商人、伊勢商人と並ぶ日本三大商人とされる「近江商人」の経営哲学に「三方よし」という言葉がある。「商売で売り手と買い手が満足するのは当然のことで、社会に貢献できてこそよい商売といえる」という考え方だ。

 日本自動ドアの主力事業は一般の自動ドアではあるが、SDGsに通じる独自商品を開発・販売し、きめ細やかなサービスにもつなげている。モーターを使わず、CO2を大幅に削減できる新型の自動ドアも開発中という。多くの中小企業がSDGsに積極的ではないからこそ、同社のような取り組みは取引先や地域の人たちに注目される。SDGs経営が、同社の業績だけでなく、イメージアップにもプラスにもなっているといえそうだ。

(加藤俊・SACCO株式会社社長、編集協力 PRコンサルティング)

SACCO社長加藤俊氏
SACCO社長加藤俊氏

【筆者プロフィール】

かとう しゅん

加藤俊

(SACCO株式会社社長)

企業のSDGsに関する活動やサステナブル(持続可能)な取り組みを紹介するメディア「coki(https://coki.jp/)」を展開。2015年より運営会社株式会社Saccoを運営しながら、一般社団法人100年経営研究機構 『百年経営』編集長、社会的養護支援の一般社団法人SHOEHORN 理事を兼務。cokiは「社会の公器」を意味し、対象企業だけでなく、地域社会や取引先などステークホルダー(利害関係者)へのインタビューを通じ、優良企業を発掘、紹介を目指している。

(終わり)

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