教養・歴史書評

個人向けデジタル化資料送信サービスとは?=永江朗

国会図書館の個人向け新サービスがスタート

 5月19日から国立国会図書館(NDL)の「個人向けデジタル化資料送信サービス」が始まった。いくつか誤解もあるようなので、その点に絞って記しておきたい。

 まず、対象はNDLが所蔵する全ての資料ではないということ。デジタル化されていて、なおかつ「絶版等の理由で入手が困難なもの」に限定される。また、「3カ月以内に入手困難な状況が解消する蓋然(がいぜん)性が高い」とNDLが認めたものも除外される。

「絶版」と「品切れ」は混同されやすいが、絶版は出版社が権利を失ったもの。品切れは権利を保持しているが在庫のないもの。品切れにも「重版待ち」と「重版未定」がある。今回始まったサービスでは「絶版」と「重版未定」が対象となる。新刊書店で入手可能な本や電子書籍として入手可能な本は対象ではない。

 また、誰でもすぐに利用できるわけではない。NDLに利用者登録していて、日本国内に居住し、同サービスの利用規約に同意した人に限られる。

 NDLの資料がスマートフォンでも読めるようになると書く新聞もあったが、筆者は無理だと思う。NDLのデジタル化資料は紙の本をそのまま撮影したもの。テキスト情報ではなく画像情報なのだ。多くの電子書籍が採用しているリフロー型(画面や文字のサイズに合わせてテキストやレイアウトが流動的に表示される方式)ではない。10インチ以上のモニターでなければ、読むのにかなり苦労するだろう。

 今回のサービスは、絶版・品切れ本を読みたい研究者や一般読者にとって朗報であることはいうまでもない。だが、本の書き手にとってもうれしい。品切れ、重版未定というのは、いわば“著作権の塩漬け状態”。それが解消される。書いたものが重版未定のまま放置されているのは、書き手にとって最も悲しいことである。また、今回のサービスによって需要が確認できれば、重版や電子書籍化を決断する出版社も出てくるだろう。前述の通り、その場合はサービスの対象からは除外される。

 サービス開始の背景にはコロナ禍があるともいわれる。まさに禍(わざわい)転じて福となすではないか。


 この欄は「海外出版事情」と隔週で掲載します。

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