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教養・歴史 書評

発見と気づきの1268ページ 夏休みに挑むべき書=評者・加護野忠男

『経営戦略の実戦2 企業成長の仕込み方』 評者・加護野忠男

著者 三品和弘(神戸大学大学院教授)

東洋経済新報社 1万9800円

成長率高い110社研究

「まず利益、それから成長を」

 本書は、優良企業をつくるための戦略はどのようなものか、そのような戦略はどう育てていけばいいのかというテーマについての壮大な研究プロジェクトをもとにした全3巻の教科書の一冊である。想定されている読者は経営戦略をつくる経営者とその候補者だ。

 著者は優良企業という抽象的な概念を「利益率」「市場シェア」「成長率」の三つの具体的な指標を基準に定義している。本書はその中でも成長率に注目して選ばれたケースをもとに、高い成長率を示した企業の経営戦略を明らかにしようとした巻である。分量は1268ページという驚くべき分厚さであり、さらに驚かされるのは、本書は全3巻シリーズの第2巻だということである。第1巻は「高収益事業の創り方」で677ページ、第3巻は「市場首位の目指し方」で584ページ。全て合わせると2500余ページにもなる。

 この巻では、日本の安定成長企業118社のうちデータが入手できた110社が取り上げられ、それらの企業の戦略が短いケースにまとめられている。ケースは成長パターン別に各章に分けて比較検討され、分析の結論は、五つの命題として終章にまとめられている。

 大部の本なので、すべてのケースを通読するのは難しいかもしれない。時間のとれない読者には、終章のなかで興味が持てる命題に登場するケースを選択的に読むことをお勧めしたい。終章の命題の中で、読者の常識に合わない命題に登場するケースを読めば、新しい発見や気づきがあるだろう。

 筆者が経営学者として反省を迫られたのは、第5の命題「成長は優先順位において利益に劣後する」であった。この命題は、成長と利益とを両立させる戦略としては、まず競争優位を確立して、それで獲得された利益剰余金を利用して成長を実現するという行動がよい結果を生み出しているという結論である。これは多くの経営学者が考えているような、まず成長して規模が大きくなってから優位を獲得して利益を獲得するという道筋とは逆である。こう考えてきた人々は基本認識を改める必要がある。

 また本書の結論によれば、日本企業は留保利益をためすぎているという投資家や政治家の間でよく語られる批判も、誤りということになる。留保利益を吐き出してしまえば、企業成長は実現できなくなる。留保利益は成長の原資になっているのである。

 夏休みに挑戦するのに格好の書である。

(加護野忠男・神戸大学特命教授)


 三品和弘(みしな・かずひろ) 1959年生まれ。一橋大学商学部卒業後、同大学院商学研究科修士課程修了。ハーバード大学ビジネススクール助教授などを経て現職。著書に『戦略不全の論理』『どうする? 日本企業』など。

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