72年も続いた読書世論調査があったから分かること=永江朗
毎日新聞「読書世論調査」が終了
戦後長く続けられてきた毎日新聞の「読書世論調査」が終了した。これに伴って、調査結果をまとめた書籍の発行も中止する。調査の実施と書籍を発行してきた毎日企画サービスが4月7日に発表した。
読書世論調査は戦後間もない1947年に開始された。この年は読書週間が始まった年で、毎日新聞は毎日出版文化賞の創設とともに読書世論調査(第1回の名称は出版世論調査)を目玉行事のひとつとした。単なるアンケートではなく、設問や対象の抽出方法など実施方法について専門家の協力を得た調査である。読書に関する調査でこれほど厳密かつ長期間にわたって継続されてきたものはない(家の光協会の農村読書調査も歴史は長いが、名称が示すように対象が限られる)。2020年と21年はコロナ禍により調査が中止され、19年6月の調査が最後となった。
終了の理由について毎日企画サービス調査部は「諸般の事情により」としているのみ。コロナ禍により住民基本台帳からの対象抽出が困難になったことや、費用がかかりすぎることなどがあるのかもしれない。
72年間のデータを見て気づくことは多い。たとえば読書率(書籍・雑誌を「読む」と答えた人の比率)にあまり変化がないこと。確かに調査が始まったばかりの(つまり敗戦から間もない)40年代後半から50年代前半にかけての読書率は低いが、55年ごろからは70%台となり、その後は長いスパンで見ると大きな変化がない。つまり、常套句(じょうとうく)のようにいわれる「読書離れ」は起きていない。もし読書離れしているなら、読書率は年々下がっているはずだ。
読書率は数ポイントでの上下を繰り返す。よくメディアでは「昨年に比べて○○ポイント増えた(減った)」と報じるが、前年と比べてもあまり意味がない。
よくいわれる「若者の読書離れ」も、データからは見えてこない。20代の読書率も変わっていない。また、一貫して20代の読書率のほうが60代・70代よりも高い。
しかし、こうした「読書離れのうそ」も「若者の読書離れのうそ」も、長く継続してきた読書世論調査があるからわかること。同調査が終了したことの損失は計り知れない。
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