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マーケット・金融異次元緩和を問う

財政政策に入り込む中央銀行=翁百合/6

 金融政策の限界が認識され、焦点は財政政策に移っている。しかし、異次元金融緩和によって、日銀が財政政策に踏み込んでいると翁百合・日本総合研究所理事長は指摘する。中央銀行の独立性のあり方が問われる。(異次元緩和を問う)

 翁氏は政府の有識者会議メンバーを歴任してきた。岸田政権下でも、「新しい資本主義実現会議」の委員を務める。

 各種の会議に出席する機会には人への投資と、それによる生産性の向上が大事だと繰り返し述べている。

 異次元緩和の当初はデフレ脱却がカギとの声が強かったが、生産性がカギであり、潜在成長率を上げていかなければならないことがようやく認識されるようになった。そのことに気づくのが遅れた影響が大きすぎると感じている。

 安倍政権も成長戦略は掲げていた。2014年の「選択する未来」委員会は生産性向上、少子化対応、地域活性化の3点を挙げていた。それを検証する「選択する未来2.0」懇談会の座長を務め、昨年6月に報告書を提出した。残念ながら潜在成長率は横ばいで生産性は下がり続けている。出生率もコロナ前から下がっている。地域活性化だけは、一貫して続いてきた東京一極集中がコロナで少しだけ是正される兆しがある。

 マクロの生産性を上げていくには、人への投資を行いながら、生産性の高い部門に人がシフトし、賃金が上がっていくことが大事だ。国民が望むのも、持続的に賃金が上がることだ。

 長期停滞の要因として、生産性の低い企業が残ってしまうことがマクロの生産性にマイナスに寄与していると指摘されている。金利機能は効率的な資源配分を促すものだから、低金利はなんらかの背景になっている。

 長期停滞には、需要と供給の双方からさまざまな要因があるが、異次元緩和は長期停滞の結果であり、一方で原因でもある。

 異次元緩和を経済政策の前面に打ち出した安倍晋三元首相は、20年9月に首相を辞任した後も影響力を持つ。今年5月には「日本銀行は政府の子会社」と発言し、波紋を広げた。

 日銀が事実上、まさにそのような立場に置かれてしまっていることが非常に大きな問題だ。

 日銀は独立性のもと、通貨の安定、つまり物価と金融システムの安定を図るのが使命だ。独立性は条件なしに与えられているわけではない。選挙で選ばれていない中央銀行の政策は、国民から信頼され支持されなければ実行できない。

 独立性を担保するうえで、なんらかの目安を示して説明することが大事という考え方は理解できる。ただ、異次元金融緩和で2%のインフレ目標を掲げ、期待に働きかける手法の有効性に過大な期待があったことが適切だったのか、疑問を感じる。

金融システムに潜むリスク

 数字だけにこだわると金融に不均衡が生じる。不均衡は物価だけに表れるわけではない。日本のバブル期に物価は安定していたが、資産価格などひずみは大きくなっていた。

 翁氏はもともと、金融システムの安定を図るプルーデンス政策が専門。1990年代には不良債権問題や金融機関の破綻処理を分析し、産業再生機構の委員も務めた。

 金融システムの健全性は、表面的には崩れていないようにみえる。だが、低金利で地銀等は外債に傾斜し、含み損を抱えている。マクロの資金循環としても、度重なるリスクにさらされた企業部門が現預金の保有を増やしており、金融機関は厳しい環境にある。金融システムの潜在的リスクは拡大している。

 いま局面が変わっているのは、財政政策との関係だ。独立性のもと金融政策を行っているはずなのに、日銀は国債を大量に購入したことで、結果的に財政政策に深入りし、抜け出せなくなっている。

 今後、市場からの金利上昇圧力は続き、インフレで金利を上げざるをえないこともありうる。金利が上がることで超低金利の国債を大量に保有している日銀に大きな損失が生じた場合、それは日銀が債務超過に転落するという国民にとって想定外の社会的コストを突きつける可能性もある。

 民主主義のプロセスがない形で財政政策に入り込んでいることが問題だ。

 13年4月に異次元金融緩和が始まったのは、安倍政権が前年12月の衆院選で、大胆な金融緩和を公約に掲げて勝利し、誕生したことが反映されている。民意が緩和を求めたともいえる。

国民は10年も同意せず

 最初はそうだったが、国民は10年も続くとは思っていなかっただろう。当初、日銀は「2年でインフレ2%」と言っていたから、その間は年間50兆円、80兆円と保有国債残高を増やしても、その後で出口を考えれば問題は小さかったかもしれない。それが10年続き、国債保有(図)によって結果的に日銀の債務超過などに伴い、さまざまなコストが生じるとなると、「そこまで同意しただろうか」と国民は思うのではないか。

 たとえば今のインフレが加速していくとしたら、日銀は金利を上げ、生じるコストを財政が穴埋めするのか。それとも政策を動かさず国民はインフレを受け入れざるをえないのか。

 インフレが進めば低所得者に大打撃である一方、金利が上がれば国債の利払い費が増え、財政を直撃する。どちらかに陥れば大変な事態だから、ナローパス(狭い道筋)だ。ここまでバランスシート(資産・負債の規模)が拡大すると、日銀がこの先、ドラスチックにとれる行動はそれほどない。

 出口の局面で、日銀は技術的にさまざまな手立てを講じるだろう。最終的に大きな課題となるのは、財政の持続可能性だ。これほどまで国債を購入してきた日銀は、責任を持てるのだろうか。日銀が出口について議論を避ける根底には、財政の持続可能性の問題があるのだろう。

 財政規律に対して長期金利市場が警告を発する機能は失われている。財政支出が本当に生活の質や生産性向上に寄与するかどうかを問うことなく、規模に傾斜しがちな弊害がある。

 日本の財政は、高齢化で拡大する社会保障をファイナンスする消費税導入・税率引き上げが遅れてきたから、科学技術や教育など長期的に税収増につながる投資ができていない。日本の閉塞(へいそく)感にはそのような背景もあると思う。今後、長期的な成長につながる投資を行いながら、財政再建を進めなければならない。

(翁百合・日本総合研究所理事長)

(構成=黒崎亜弓・ジャーナリスト)


 ■人物略歴

おきな・ゆり

 1960年生まれ。84年日本銀行入行。92年より日本総合研究所、2018年より現職。著書に『金融危機とプルーデンス政策』など。


 ※次回の掲載予定は7月26日号

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