週刊エコノミスト Onlineロングインタビュー情熱人

気軽に飲める3つ星ワインを都内で醸す 醸造家、須合美智子さん

「ペーパードライバーでしたが、今ではトラックも運転します(笑)」 撮影=佐々木 龍
「ペーパードライバーでしたが、今ではトラックも運転します(笑)」 撮影=佐々木 龍

45歳で訪れた転機

須合美智子 都市型ワイナリー「葡蔵人~BookRoad~」醸造家/37

 国産ワインといえば、ブドウ産地の山梨や長野を思い浮かべるが、東京都内にも都市型ワイナリーがある。須合美智子さんは45歳でワイン醸造家に転身し、「生産者の顔の見えるワイン」としてファンを増やしている。(聞き手=元川悦子・ライター)>>>「情熱人」はこちら

「ブドウと蔵と人をつなげ、笑顔になってほしい」

── 東京・御徒町にワイナリー「葡蔵人~BookRoad~」(ブックロード)があると知って、驚く人は少なくないのでは?

須合 そうですね。ただ、いろいろなメディアに取り上げられるようにもなり、徐々に認知度が高まっているのを実感しています。毎月最終週の金・土曜日にここでワインとおつまみを楽しめるイベント「月一(つきいち)バル」を開いていて、今年の大型連休中の4月29、30日はとても多くのお客さんに来てもらえました。新型コロナウイルスの行動規制が解除され、「やっと来られた」という沖縄や北海道のお客さんもいて、本当にうれしかったですね。

── 年間でどれぐらい生産しているのですか。

須合 10坪(約33平方メートル)のスペースに、500リットルと1000リットルのタンクがそれぞれ四つあり、年間生産量は750ミリリットルボトルで2万本程度です。使っているブドウは12種類で、「ベリーA」「シャインマスカット」「メルロー」「ピノノワール」「富士の夢」などを扱っています。主力商品は2017年にワイナリーをオープンして一番最初に作った「アジロン」、オレンジの色合いが美しい「醸し甲州」などですが、どの種類もすべて年間1000~2000本を生産し、偏りのない作り方をしています。

── ブドウ産地にあるワイナリーと違って、都市にあるワイナリーは原料のブドウの輸送が大変ですね。

須合 富士の夢を作る日であれば、茨城県八千代町の契約農家に午前5時に出向き、2トンのブドウを15キログラムごとに1ケースとして計量し、合計134ケースをトラックに積み込んで輸送します。確かに労力やコストはかかりますが、やっぱりおいしいオリジナルワインを作りたいんです。今年1月には東京都八王子市に自社農園を確保して、4月には「ピノグリ」と「ネッビオーロ」という品種を植えました。私もときどき畑に行って世話をしていて、3年後の25年には自園のブドウからワインができる見込みです。今から本当にワクワクしています。

下町風情あふれる一角に

 JR山手線・御徒町駅から徒歩5分。事務所や商店などが建ち並び、下町風情あふれる一角。小さなビルの1階に店を構えているのが、17年11月に開業した「葡蔵人」(東京都台東区台東3)だ。消費者の顔が見える場所でワインを生産する都市型ワイナリーは、日本でも増えてきているものの、まだまだ数は少ない。それでも、「ブドウと蔵と人をつなげ、笑顔になってほしい」という思いを込めたワイナリーの名前のように、須合さんのワイン作りに対するこだわりと、その明るい人柄にひかれて着実にファンが増えている。

── どのような年間のサイクルでワインを作っているのですか。

須合 ワインの製造工程を簡単に説明すると、ブドウを収穫し、醸造場に搬入してバラバラにするところから始まります。それをつぶし、絞って果汁にするのが第一歩。タンクに入れて発酵させ、一定期間醸造し、仕上げをしてから瓶に詰めるというのが、一連の流れです。

 ブドウの収穫が始まる8月から、契約している山梨や長野、茨城のブドウ農園に出向いて一緒に収穫し、それを御徒町まで運んで果汁にする作業を始めます。その後、タンクで発酵を進めるとともに、アルコール分や糖度、酸味、濁度などを分析し、ろ過して瓶詰めをする作業を4月末まで続けます。瓶詰めが終わるころにラベルのデザインなどをみんなで決め、ラベルを貼って販売を開始します。

── 現在は何人で運営しているんですか。

須合 総勢4人で、私がワイン製造、それ以外の3人は畑の管理、出荷、SNS(交流サイト)など広報宣伝を主に担当しています。ワインを作…

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