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週刊エコノミスト Online ロングインタビュー情熱人

自動車エンジニアがサックス奏者になって見えたこと サックス奏者、中村健佐さん

「赤いちゃんちゃんこじゃなく赤い衣装を着て、20周年記念のコンサートをやりたい」 撮影=蘆田 剛
「赤いちゃんちゃんこじゃなく赤い衣装を着て、20周年記念のコンサートをやりたい」 撮影=蘆田 剛

路上を舞台に20年

中村健佐 サックス奏者、ストリートミュージシャン/36

 ホンダのエンジニアからアルトサックスのストリートミュージシャンに転身して20年。コロナ禍という逆境も襲うが、路上を舞台に常に新たな表現を模索し続ける。

(聞き手=大宮知信・ジャーナリスト)

(情熱人)

「己の腕一つで人が泣いたり笑ったりしてくれる」

── 新型コロナウイルスの感染拡大の影響で最近、街角で楽器を演奏するストリートミュージシャンを見かけないなと思っていたんですが、今年4月以降、川崎市や千葉県浦安市などでストリートライブを再開したそうですね。

中村 ストリートライブは2年間休止していたので、やってよかったですね。お客さんも喜んでくれたし、僕もうれしかったです。けれど、ストリートライブの環境は大きく変わってしまいました。

── え、どういうことですか。

中村 私はストリートでCDを売る一方、おひねりはいただかない主義だったけど、そうもいっていられないから、おひねりをもらうこともやりました。今年2月にデビュー20周年を迎えたのですが、最初の10年間はストリートでCDを買っていただいていたので、ほぼそれでやってこれたんです。だから、新作も次々に出してこられた。

── すでに8作のオリジナルアルバムを出していますね。

中村 ストリートライブはこれまで、三千数百回やってきました。CDは8万枚ぐらい売れています。でも、2015、16年ごろには7万枚ぐらいになっていたので、その後は数年かけて1万枚ぐらいしか売れていません。その落ち方は半端ないですね……。コロナ禍以前から、CDというメディアそのものが衰退していたんです。

 私の収入はストリートでのCD販売が7~8割を占め、あとはイベントとかコンサートだったんですが、ネット配信などの普及でCDの需要が大きく下がってきたので、あわてて大きなコンサートを開くようになったわけです。それまで年に2、3本だったコンサートを5、6年ぐらい前から年間8本ぐらいに増やしていきました。ストリートはコンサートのPRが主な目的になったのです。

40歳前にホンダ退職

── 稼ぎ方が大きく変わったわけですね。

中村 はい。その場では大してお金にならなくても、チケットを買ってホールに足を運んでもらうという戦略に切り替えていきました。世の中はモノから体験型に移行して、特に若い人はCDよりもコンサートやライブに行くようになっています。だからコンサートの回数を増やしたのですが、そこへコロナ禍が来ちゃった。呼ぶな、集まるな、ということになってしまって、かなり大きな打撃になりました。

 感染者数が減った昨年12月は、横浜赤レンガ倉庫(横浜市)などでコンサートを開いたりしてすごく忙しかったんです。けれど、年が明けてからはオミクロン株が感染拡大してしまい、神奈川県民ホールでコンサートを開いた1月21日に「まん延防止等重点措置」の適用が始まりました。客席が400人以上あるホールに50人も入らない。会場費は変わらないから、コンサートは開くたびに赤字です……。

 アルトサックス奏者の中村さん。誰もが知るポップスや甘い調べのオリジナル曲など幅広いレパートリーを奏で、東京都や千葉、神奈川県などの街角をステージに道行く人の足を止めてきた。コロナ禍という思わぬ逆境に直面したが、今年9月に還暦を迎えるのを前に、演奏は一層の円熟味を増す。そんな中村さんは、実はホンダの元自動車エンジニア。今年がデビュー20周年なのも、40歳を目前にホンダを退職して新たな道を歩んだからだ。

── 音楽は子どものころから好きだったのですか。

中村 小学校でシンバルをたたいていたぐらいで、音楽の経験はないんです。それでも、両親が声楽家だったので、高校生の時、親に「音楽を勉強したい」と言ったら、「日本は芸術家が報われない国。食べていけないから音楽はやりなさんな」と。安定した道へ進みなさいと強く言われました。大学では理工学部へ進んで機械工学を学び、オートバイが好きだったのでホンダに入社しました。

譜面ではなく「耳」で

── ただ、入社後は四輪車…

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