週刊エコノミスト Onlineロングインタビュー情熱人

竹は持続可能なアートを提案できる最高の素材 四代田辺竹雲斎さんの「守破離」

「竹の摂理や強さから、何が生き残れるかを学ぶことができます」 撮影=平岡 仁
「竹の摂理や強さから、何が生き残れるかを学ぶことができます」 撮影=平岡 仁

伝統を受け継ぎ突き抜ける 四代 田辺竹雲斎 竹工芸家/31

 日本の伝統的な竹工芸の枠を超え、壮大な現代アートの作品作りにも取り組む四代田辺竹雲斎さん。持続可能なアートを世界に提示し、いまや舞台はデジタルにまで広がった。その「守破離」を追った。

(聞き手=山田道子・ライター)

── 伝統的な竹工芸の作品だけでなく、壮大なインスタレーション(空間芸術)の制作活動が評価され、文化庁の2021年度芸術選奨文部科学大臣新人賞(美術部門) を受賞しました。昨年以降、ポーラ伝統文化振興財団の「伝統文化ポーラ賞」、大阪府・市の「大阪文化賞」と立て続けの受賞です。

田辺 芸術選奨の美術部門ではこれまで主に現代美術の方が受賞していたので、工芸でいただいたのには驚きました。私は、代々の技術や精神を受け継ぐ伝統的な作品を手がける工芸作家と、インスタレーションや竹の立体作品を制作する現代アート作家のハイブリッドで活動しています。二つの面が評価されたとしたらとてもうれしいです。(情熱人)

 これまで海外を中心に活動してきました。もっと広げようとしている時に新型コロナウイルスが感染拡大し、活動を国内に移しました。その結果、日本でもインスタレーションが知られたこともあるのでしょう。

── その半面、コロナ禍で芸術は「不要不急」のものとされました。

田辺 経済が悪くなるとアートはまず手放されます。ウクライナのような戦争でも同じ。しかし、文化や芸術がないと人類は進化しません。想像力や感性は人が生きていくために最も必要なものです。その意味で、コロナや戦争の世の中だからこそ育まなければならない。乗り越えて次の時代につなげたいですね。

 田辺さんのインスタレーションは、竹ひごを編んだ筒を複数つなぎ合わせて造形されている。高さは最高で12メートルのものまであり、生き物を思わせるようなダイナミックで立体的な曲線美を空間に創出する。背景にあるのは「守破離」という芸事の世界の思想。明治期から大阪・堺で代々続く竹工芸の田辺家で、その伝統を体得して守りながらも、それを打ち破って変革し、離れて別次元に展開する。

「圧倒」する作品を

── 大阪の堺では「お嫁に行く時は竹雲斎の花かごを持っていく」とも言われていた そうですね。田辺の家に生まれ、小さいころから竹工芸家を志していたのでしょうか。

田辺 父は竹工芸家、母も漆作家の家に生まれ、親戚にも工芸家が多かった。物心つかないうちから遊びのように竹をやってきたので、家を継ぐものだと思っていましたが、東京芸術大学に入ってレールに乗る人生に反発が生じました。大学にも行かず悩んだ末、やっぱり「竹をする」しかないと思い至った。大学卒業後は大分県の別府高等技術専門校で竹工芸を学び、その後は父の下で修業して伝統的な技術を身に付けました。

── 海外での活動は若いころからですね。

田辺 父の下で修業中の2001年、アメリカのフィラデルフィア美術館のクラフトショーに出展しました。9・11同時多発テロの2カ月後です。アメリカのアートの大きさを痛感しました。レッドカーペットが敷かれ、みんなタキシード姿でシャンパンを持ちながらアートを買っている。出展した十数人の日本人工芸家のうち私は27歳で最年少。昼の修業を終えた後に作った作品など約20点を持っていきました。

 その中に、今のインスタレーションの原型のようなアート作品があり、美術館が買い上げ、翌月のパンフレットの表紙にしてくれたのです。年功序列の日本では考えられない。知名度や年齢、経験など関係なく、いいものを作れば認めてもらえる世界。それから海外で展覧会をするようになりました。

竹ひごを再利用

── 竹でインスタレーションを作るという発想はどこから生まれたのですか。

田辺 フィラデルフィア以降、さまざまな活動をする中で、工芸で生計を立てることの難しさに直面しました。昔の日本の家には床の間があり花かごが置かれていましたが、今はそのような文化はなくなった。しかも、竹は焼き物や漆などに比べて工芸の中でもマイナーな存在。なんとか新しい世界を作らなければと思うよ…

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