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「入管収容の実態を証拠として残さなければ」 映画「牛久」監督トーマス・アッシュさんインタビュー=井上志津

「初来日した時、アメリカの田舎町を転々とした子供時代を思い出して懐かしさを感じました」 撮影=佐々木龍
「初来日した時、アメリカの田舎町を転々とした子供時代を思い出して懐かしさを感じました」 撮影=佐々木龍

入管収容の実態を記録 トーマス・アッシュ 映画監督/26

 出入国在留管理庁(入管)の施設における収容者との面会の様子を記録したドキュメンタリー映画「牛久」が公開中だ。トーマス・アッシュ監督に製作の経緯や日本への思いを聞いた。

(聞き手=井上志津・ライター)

「証拠を残さなければいけないと使命感を感じた」

「入管職員にも家族や生活がある。職員を責めたくない。悪いのは暴力的なことをさせる仕組み」

── 監督作品のドキュメンタリー映画「牛久」は、茨城県牛久市の東日本入国管理センター(牛久入管)で、在留資格を失ったりして収容された外国人との面会の様子を、小型カメラで「隠し撮り」して記録しています。初めて牛久入管に行ったのはいつですか。

アッシュ 2019年秋です。私は日本聖公会聖オルバン教会(東京都港区)のメンバーで、教会の友人に誘われて入管で収容者と面会するボランティア活動を始めました。それまで新聞やニュースで入管の問題については知っていましたが、実際に訪れてみると、心身ともに弱っている人がいて命の危険を感じるほどでした。ここは収容所ではない、まるで刑務所ではないかとショックを受けました。(情熱人)

── 記録に残そうと考えたのは?

アッシュ このままでは誰かが死んでしまうかもしれないと思ったからです。収容者の中には、具合が悪くて外の病院に行きたくてもなかなか行かせてもらえない人もいるし、うつ状態になって自殺未遂をする人もいました。何かがあった時のために証拠を残さなければいけないという使命感を感じました。

 在留資格のない人、更新が認められず国外退去を命じられた外国人を強制的に収容する施設は全国に17カ所ある。東日本入国管理センターもその一つだ。映画「牛久」はアッシュさんが面会室で収容者の了解のもと、撮影した映像をもとに構成。「僕らはゴキブリ同然」「押さえつけられて体中が痛い」──。収容所で置かれている状況を面会室でアクリル板越しに訴える9人の様子が記録されている。

痛みを与える「制圧」

── 隠し撮りという手法についてはどのような経緯で決めたのでしょう。

アッシュ 別に何かショッキングなことをしたいというのがスタートではないのです。証拠を残すにはそれしか方法がなかったから。入管施設では録音・録画が認められていませんが、私はルールを破ろうと思ったわけではありません。収容者は犯罪者ではないし、収容施設は刑務所ではないのに、なぜ録音・録画が禁止なのか理由が分かりません。ルール自体がナンセンスだと思っています。

── 映画にして公開することにしたのは。

アッシュ もとの目的は映画を作ることではありませんでしたが、この人権侵害を解決するために大切なのは皆さんに知ってもらうことですので、撮影後に仮放免(在留資格がないなどの事情を抱える外国人に入管施設外での生活を認めること)された9人に映画出演の同意を取り、公開することにしました。出演者の1人は「自分だけの問題ではない。入管制度を変えるために1人でも多くの人に入管の現状について知ってほしい」と言ってくれました。

── 収容者の1人が何人もの入管職員に暴力的に制圧される映像が恐ろしいですね。

アッシュ あれは暴力を受けた本人が国を相手取って起こした裁判で開示された、入管側が撮影していた映像です。19年の開示当時もニュースで報じられて話題になりました。職員が収容者のあごの下に親指を食い込ませていますよね。あれは偶然ではなくて、痛みを与えるためにやっていることです。でも、職員を責めたくはないんです。職員にも家族や生活がある。そうした暴力的なことを彼…

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