週刊エコノミスト Onlineロングインタビュー情熱人

「熊本地震が僕に教えてくれたこと」 元サッカー日本代表・巻誠一郎の“次なるチャレンジ”とは

「社会から孤立している人、放り出されている人がいる現状に、一石を投じることができたら」 本人提供
「社会から孤立している人、放り出されている人がいる現状に、一石を投じることができたら」 本人提供

故郷・熊本とともに 巻誠一郎 元サッカー日本代表選手/23

 現役時代に遭遇した熊本地震から間もなく6年。発災直後から避難所を回り、引退後の「セカンドキャリア」を故郷の復興支援にささげてきた。根底にあるのは「誰かのために動く」という決意だ。

(聞き手=市川明代・編集部)

「海外に身を置いて自分の存在価値に気付いた」

「『誰かのために動く』ことで力を発揮できるそれがすべての原点にある」

── 2016年の熊本地震から、地域に根付いた災害支援活動を続けてきました。いま力を入れていることは。

巻 地震発生を機に立ち上げたボランティア団体を基に、17年に「ユアアクション」というNPO法人を設立しました。将来、地域を担う子どもたちに夢を持ってほしいという思いから、熊本を中心に年間30回ぐらい、「夢を持つことがなぜ大事か」「夢をどう形に変えるか」という講演をしてきました。その過程で突きつけられたのは、経済的事情などによって、夢があってもどうしても道を開けない子どもたちがいるという現実でした。(情熱人)

 そこで2年前から、レーサーになりたい、ハンバーガー屋さんになりたい、どんな夢でもいい、そういう子どもたちを募って、夢をかなえるために目の前にある課題を定義し、解決する力を養うプログラムを作りました。企業や団体から寄付を募り、子どもたちは完全無料で週1回、1年間学んでいます。

── サッカーを通して学ぶのですか?

巻 最初の1時間は課題を与え、解決策を考えてもらう。残りの1時間はサッカーを通してそれを実践します。サッカーは学びの多いスポーツです。足でボールを蹴る。だからミスがあって当たり前。ミスをいかに減らすか、ミスをいかにリカバリーするかを考えるスポーツです。忍耐力も養われます。

── 熊本地震では、発災直後から精力的に活動し、話題になりました。

巻 最初は、海外でプレーした時にプライベートでつながりができた企業の関係者たちが、物資の調達などに協力してくれました。その輪が予想以上に大きく広がったので、地域の同世代の仲間たちに声をかけ、全国から集まった物資をまず福岡の拠点に集約し、そこから熊本の倉庫に搬入する仕組みを作りました。当時は2次ソース、3次ソースによる古い情報、誤った情報が拡散されていました。1次ソースから得られる情報を発信するため、避難所の人たち約200人をつなぐLINEグループを作りました。

── 「生の声」を聞くために毎日、避難所を回ったそうですね。

巻 正しい情報を発信するために、こまめに避難所を回る必要がありました。まだ現役選手だったので、試合のない日は午前中の練習が終わったあと午後11時ごろまで避難所で話を聞きました。1日5カ所、3カ月で延べ300カ所回りました。

── 子どもたちにサッカーを教えました。

巻 子どもたちは避難所で大声を出せず、走り回ることもできず、ストレスをためていました。スポーツというより、ボールを使ってコミュニケーションを取るという簡単なことですが、始めてみるとすぐに笑顔になって、それを見ている大人たち、おじいちゃんおばあちゃんまで笑顔になった。最初はロアッソの選手だけで回っていましたが、他のチームの選手も参加したいと手を挙げてくれて、サッカーの輪が一気に広がりました。

日本人が1人もいない街で

── もともと目立つことをするタイプじゃなかったそうですね。生まれ故郷が被災したショックが、人を変えたのでしょうか。

巻 一番大きかったのは海外移籍の経験だと思っています。ロシア・プレミアリーグでは、日本人が1人も住んでいないペルミという100万人都市のチーム…

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