弱い地域、弱いものに光を当て、スポーツの新たな価値を生み出す=早川周作
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スポーツの新たな価値を生み出す 早川周作 卓球チームオーナー/21
プロ卓球リーグ「Tリーグ」のチーム「琉球アスティーダ」を立ち上げた早川周作さん。3年目にチームを日本一にし、さらに日本のプロスポーツチーム運営会社として初めて上場を果たした。
(聞き手=村田晋一郎・編集部)
「弱い地域、弱いものに光を当てたい」
「ビジネスは掛け算的思考が重要。スポーツ×○○で、BtoB、BtoCのマーケティング会社として成長する」
── プロ卓球チームを立ち上げ、Tリーグに参入したきっかけは。
早川 スポーツはもうからない、経営が難しいというイメージが定着していたので、スポーツの経営には全く興味がありませんでした。ただ、Tリーグの立ち上げが始まった時期に初代チェアマンの松下浩二さんと話す機会がありました。そこで、「卓球は5歳から始めて、それほどお金をかけずに15歳でオリンピックや世界選手権でメダルを取れる可能性があるスポーツ」と言われたことが、心にズシリと刺さりました。(情熱人)
私は19歳の時に父親が蒸発し、行政に相談しても相手にされないという経験をしました。その境遇の中で、強い地域、強いものだけに光が当たって、弱い地域、弱いものには光が当たらないような社会を変えたいと思って、ベンチャー企業を起こしたり、国政選挙に出馬したりしました。もうかるかどうかではなく、自分の思いをかなえていくのが、事業だと私は思っています。移住した沖縄では、貧富の格差が拡大していることもあり、お金をかけずにチャンスが与えられる卓球に魅力を感じ、Tリーグ参戦を決めました。
── 選手はどのように集めたのですか。
早川 最初は松下さんに丹羽孝希選手(リオ五輪銀メダリスト)らを紹介されました。さらに台湾の代表選手も加わり、「このメンバーなら優勝できる」と言われました。
日本初のプロ卓球リーグ「Tリーグ」は2018年10月に開幕。男子は琉球アスティーダを含め4チーム、女子も4チーム(現在は5チーム)でリーグ戦を戦う。初年度(18〜19年シーズン)の琉球アスティーダは最下位となった。
ビジョンに合う選手を集める
── 1年目を振り返ると。
早川 1年目はいわば「与えられた戦力」で戦ったかたちでした。人に頼るだけでは絶対に良い結果を生まないことが分かり、これではダメだと思いました。
── 改善のためにどんな行動を。
早川 なぜ勝てないのかと思って、すべての試合に同行して、選手の試合前の練習の姿勢、試合中の失点した時やピンチになった時の表情、試合後のあいさつの仕方などを見るようにしました。また、1年目と2年目は、他チームの選手も積極的に食事に誘って話をしました。競合チームの社長が他チームの選手と食事をするのは奇異に映ったと思います。しかし、卓球選手は何を望み、何をかなえたくて、何を課題にしているのかをヒアリングしました。ここはビジネスと同じで、成長できる人間の考え方を持った選手と一緒に戦っていかなければいけないと思いました。
そして2年目は体制を大きく変えました。私なりに「世界を獲(と)りにいくよ。」「琉球の明日の太陽になる(アスティーダ)」というチームのビジョンは明確で、そういう志を持って、一緒に戦える人は誰なのかを考えていきました。そこで目を付けたのが、1年目はTT彩たまに所属していた吉村真晴選手(リオ五輪銀メダリスト)でした。
吉村選手は野田学園高校(山口県)出身で、琉球アスティーダには同校出身者が多く在籍する。数年前まで高校卓球界は青森山田高校(青森県、現在は強化を停止)が絶対的な存在で、水谷隼選手(東京五輪金メダリスト)や丹羽選手も同校出身。野田学園は当時の青森山田に対抗する高校の一つで、「思い切って振り切る」卓球が身上となっている。
── なぜ、吉村選手に。
早川 まず吉村選手自身も熱い思いを持っていました。そして目指すチームカラーに合うと思いました。琉球アスティーダは「面白く楽しくやりきろうぜ」「もうやっちゃえよ」という感じでやっています。イケイケで思い切ってやりきる姿勢でないと、水谷選手や張本智和選手(東京五輪銅メダリスト)らのいる木下マイスター東京に勝って、日本一のチームは作れないと思いました。
高校の卓球のスタイルを考えると、アスティーダが目指す姿に近いのは野田学園。そこで野田学園出身の吉村選手をはじめ、野田学園の橋津文彦監督のイデオロギーを持つ選手を集めていきました。そして、吉村選手をキャプテンに指名し、一致団結してチーム力で勝っていこうと決めました。3年目の昨季(20〜21年シーズン)に…
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週刊エコノミスト
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