週刊エコノミスト Onlineロングインタビュー情熱人

ユーチューブで総再生回数3000万回突破の予防医学チャンネルに込めた熱い思い 森勇磨さん(医師)インタビュー=加藤結花

「患者さんの健康を守るためには、正しい医学知識を知ってもらうことが大切」 撮影=藤岡徹
「患者さんの健康を守るためには、正しい医学知識を知ってもらうことが大切」 撮影=藤岡徹

「全ての人に正しい医学知識を」をモットーに、がんや生活習慣病などの情報をユーチューブで発信。2020年2月に開設した「予防医学ch/医師監修」は、チャンネル登録者数37万人、総再生回数は3000万回を突破した。

(聞き手=加藤結花・編集部)

「感謝されない医者になるのが理想です」

「病院にいるのは少数派で、多数派は『病院の外』にいる。正しい情報発信が重要だと痛感した」

── 予防医学を中心とする医学情報をユーチューブなどで発信されています。普段はどのような活動をされているのでしょうか。

森 予防医学の普及を目指して2021年に「Preventive Room」を立ち上げ、産業医受託、オンライン健康相談サービスなどを行っています。現在は5、6社の産業医業務を受託し、健康診断や社員食堂のメニュー提案をしたり、無料通信アプリ「LINE(ライン)」を使いながら健康・食事・運動指導をしています。(情熱人)

── オンラインサービスでは病気じゃない人も対象ですか?

森 そもそも、多くの人が普段から医者と接点がないということに問題意識を持っています。風邪を引いたり不調になってから病院に行くと思いますが、そこでするのは基本的には薬の話で、なかなか細かい生活面でのアドバイスはもらえない。オンラインのサービスでは、初回は30分ほどじっくりと時間をかけて話を聞きます。家族構成や病歴、食事や運動の状況など、その人の1日の生活がイメージできるくらい掘り下げていきます。そうすることで、お互いに満足のいくコミュニケーションができ、リスク診断や生活改善に向けた具体的な助言もできます。

救急現場で感じた「違和感」

── なぜ、予防医学を志したのでしょうか。

森 救急総合内科で働いていました。救急では、心臓の止まった人、血管が裂けた人、脳から血が出た人など、一刻を争う患者さんが次々に運ばれてきます。生死に関わる壮絶な現場です。

 やりがいのある仕事だと思う一方、「なぜここまで悪くなる前に防げなかったのか」「もっとできることがあったんじゃないか」と、患者さんが重篤な状態で運ばれてくるもっと手前にできたかもしれないことに意識が向くようになりました。

── 救急で運ばれてくる方々に、何か共通点はありましたか。

森 経済的に貧しい人たちが多かったと思います。そして、医学知識が少ない、間違った情報を信じ込んでいる人たちが多いことに気付きました。例えば、たばこが体に悪いということは知っていても、実際にどれほどがんのリスクを上げるかということまでは知らない。患者さんの健康を守るためには、正しい医学知識を知ってもらうことが大切だという気持ちがどんどん膨らんでいきました。

── その思いで産業医になったのですね。

森 予防医学を生業とする仕事は自分の知る限りではほとんどなく、実務としてできるのは産業医だ、ということで産業医として働くことを決めました。

 産業医になって、健康診断の数値が良くないけれど、特に症状が出ていない人たちの危機感のなさには驚きました。仕事が忙しい、やらなければいけないことがあるのは分かるのですが、「大丈夫。働けるよ」と特に改善に向けた行動をとる人は少なくて、ますます予防医学の重要性を伝えていかなければいけないという思いを強くしました。

 救急にいた時は、すでに病気になった人を見ていましたが、病院にいるのは少数派で、むしろ多数派は「病院の外」にいて、彼らに健康に対する意識を高めてもらうことが大切なんだ、ということを痛感した経験でした。

── 著書『40歳からの予防医学』(ダイヤモンド社)も情報発信の一環ですか。

森 そうです。病気にならないための知識や習慣、病気の早期発見の方法などをまとめています。予防医学の観点から推奨できる検査なども年齢別にリスト化しました。

── 予防のため生活習慣などに気をつけることが重要ですね。

森 ただし、病気というのはいくら気をつけていてもなってしまうものでもあります。病気になった時、「症状に気付いていれば」「知識があれば」と後悔されるご家族を見てきました。これは非常につらいことです。予防医学について知っていれば、たとえ病気になってしまった時も「やれることはやった」と思えるようになり、当事者だけでなく家族も悲しみの軽減につながります。予防医学はグリーフ(悲嘆)ケアの観点からも重要…

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