全国に広がる「こども食堂」の先駆けは今 インタビュー・近藤博子(「ともしびatだんだん」代表理事=大宮知信
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子どもが一人でも安心して食事ができる──。そんな「こども食堂」の草の根の運動に火をつけた。だが、その活動も新型コロナウイルスの感染拡大で岐路に直面する。その目には現在の社会がどう映っているのか。
(聞き手=大宮知信・ジャーナリスト)
「孤独・孤立には、ジェンダーの問題が絡んでいる」
「ボランティア任せでいいのか、政治家はしっかりと考えてほしい。そんな日本、恥ずかしくないですか?」
── 2021年10月に岸田文雄首相が、こども食堂の視察のため「気まぐれ八百屋だんだん」を訪れましたね。
近藤 実はあの日、本当は首相官邸に呼ばれていたんです。私が代表理事を務める一般社団法人「ともしびatだんだん」など5団体の代表が官邸で岸田首相とお話しすることになっていたんですが、急に現場を視察して“車座対話”をしたいと。えーっ、と驚いて、当日まではどこをどう片付けたらいいか、それだけだったんですよ。でも、後で考えたらすごいことだなと思いました。(情熱人)
── 「聞くことが得意」だという岸田さんに、何を話したんですか。
近藤 話を聞かれたのはうちだけじゃないんです。孤独や孤立に関する活動をしている他の団体の代表も来ていて、それぞれの団体が2分ぐらいずつ話をしました。私が話したのは、学校の担任教師が相談しやすい雰囲気を作ってほしい、それが大事なことなんじゃないか、ということ。子どもたちと毎日接しているのは担任教師で、子どもの変化に気付きやすいんですよ。
副校長や校長に担任教師が気付いたことをきちんと伝えられるようにすれば、未然にいろいろなことが防げるんです。今の学校のシステムは校長の権限が強く、意見を言いにくい雰囲気になっているように思います。また、孤独・孤立の問題については、昔から日本に脈々と流れる男尊女卑、ジェンダー(社会的性差)の問題がすごく絡んでいるんじゃないかということもお話ししました。
── 今回の車座対話には、野田聖子こども政策、孤立・孤独対策担当相も同席していましたね。
近藤 彼女が話すことはなかったのですが、私がジェンダーの問題を言った時に、岸田首相がきょとんとした顔をしていたのを感じました。ただ、ジェンダーの問題は根底から変える必要があります。例えば、現在でも子どもに障害があると、母親が「この子を生んだのは私だ」と責任を感じ、社会全体でそう思わせてしまう流れもある。そうなると、どうしても女性は孤立してしまいますよね。
全国6000カ所に増加
子どもやその親、地域の人々に対し、無料や安価で栄養のある食事やだんらんを提供する「こども食堂」。現在は全国6000カ所にまで増えている。その先駆けとなったのが、東京都大田区で有機野菜などを販売する「気まぐれ八百屋だんだん」だ。こども食堂を始めたのは12年8月。近藤さんは「子ども一人でも来られるところだよ、と名付けただけで、深い意味はない」という。そのきっかけは、ふとした会話だった。
── こども食堂を始めたきっかけは?
近藤 タマゴを買いに来たある小学校の副校長から「今年入学した子どもの中に、お母さんが精神的な病気を抱えていて、お昼の給食以外の朝食と夕食は毎日バナナ1本しか食べられない子がいる」という話を聞いたんです。10年のことでした。「きまぐれ八百屋だんだん」には野菜や米、調味料もそろっている。元居酒屋の店舗なので、厨房(ちゅうぼう)もある。ここで何か作って子どもたちに食べさせたいと思いました。
── ただ、実際に始めるまでタイムラグがありましたね。
近藤 やっぱり、すぐには始められませんよね。ボランティアのスタッフはみんな賛成してくれたんだけど、お金の工面もそうだし、食材の調達や子どもへの声掛けなど、やり方がなかなか決まらなかった。そのうち、その子どもが児童養護施設に入ったという話を聞いて、すごく申し訳ない気持ちになり、やらなかった自分に腹が立ったんです。それで見切り発車で始めることにしました。
── 価格や営業時間は?
近藤 価格は表向きは決めないといけないので、子どもは一応100円、大人は500円にしています。ただ、子どもは「ワンコイン」ということにしているので、1円でもいいし、外国のコインでもゲームセンターのコインでもいいんです。毎週木曜の夜ご飯の時間帯にオープンし、0歳児から高校生まで50~60人の子どもたちが…
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週刊エコノミスト
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