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週刊エコノミスト Online ロングインタビュー情熱人

シークレット・エクスプレスを刊行 真保裕一 作家/9

「『作品で伝えたいことは』と聞かれますが、面白い話を作り、読者に喜んでもらいたいだけです」 撮影=喜屋武真之介
「『作品で伝えたいことは』と聞かれますが、面白い話を作り、読者に喜んでもらいたいだけです」 撮影=喜屋武真之介

 貨物列車が舞台の珍しい小説である『シークレット・エクスプレス』。毎日新聞での連載を終え、単行本として発刊された。ミステリー小説の名手である真保裕一さんが、輸送のプロたちに託された秘密の計画を描いた。

(聞き手=神崎修一・編集部)

「輸送のプロに託された秘密の計画 面白く物語に」

「アニメ制作はチームプレー。最初の1文字から最後のページまで自分の力だけで小説を書きたかった」

── ミステリー小説『シークレット・エクスプレス』が単行本として発刊されました。

真保 映画や小説には、危険物を運んでいる際中に危機に遭遇するという種類の作品がいくつかあります。そのような小説を「いつか書けたらいいな」と漠然と思っていました。この物語のアイデアは25年ぐらい前に思いつきました。しかし科学的な知識が乏しかったこともあり、このアイデアが使えなければ他を探せばいいかぐらいの気持ちでした。(情熱人)

東日本大震災が契機

── 貨物列車が舞台の珍しい作品です。

真保 貨物列車に注目するようになったのは、2011年の東日本大震災がきっかけです。石油不足に見舞われた東北地方に、JR貨物が日本海側の遠回りのルートで石油を運んだということをニュースで知りました。貨物列車に興味があったわけではありませんでしたが、JR貨物のプロフェッショナルな仕事が面白そうだと感じました。これまで書いてきた小説は公務員を題材とした「小役人シリーズ」など、変わったジャンルの仕事を取り上げることが多かったです。その道のプロの仕事を面白く物語に仕立てられたらいいと思い、小説を書いています。

 物語は、JR貨物に自衛隊の特殊燃料を緊急に輸送してほしいと依頼が入ることから始まる。臨時列車は青森から佐賀に向けて出発するが、ルート上で予期せぬ事故に遭遇してしまう。運転士たちは積み荷が液体とは思えない様子をみせることに強い違和感を感じ始める。コンテナの本当の中身は何なのか。なぜ緊急で運ばないといけないのか。「秘密」を載せた貨物列車は次々と危機に見舞われるが、政府と警察からは「列車を止めるな」と命令が下される。元運転士、新聞記者、原発監視団体メンバーの3人がそれぞれの立場から謎を追っていくというストーリーだ。

── 貨物列車以外に原発関連施設についても詳しい描写が出てきます。

真保 もともと貨物列車や原発に詳しかったわけではありませんでした。毎日新聞から連載の話を頂いたときに、「新聞社の連載ならばいろいろな所に取材できるのでは」という期待がありました。

── どのような所を取材しましたか。

真保 東京・品川の貨物ターミナルや出発点となる貨物の東青森駅に行き、実際の運転士や教官に話を聞きました。制御室の中に入れてもらったり、貨物列車のダイヤグラム(運行図表)も頂いたりしました。それを参考にしながら、列車の合間を縫って、今回の運行コースを設定しました。物語のカギを握る青森県の使用済み核燃料再処理工場にも実際に行きました。最初はとても警戒されましたが、核燃料サイクルに反対したり、悪者にしたりすることはしないと伝えて、理解を頂きました。いろいろな施設を見学し、どうやって小説に使うかを考えました。

── 取材で印象的だったことは。

真保 長い列車を編成するときに何人ぐらい運転士が必要なのか、どんな所に待機しているのか、欠員が出たときにはどのように対応するのかなど詳しく聞きました。貨物列車は走る場所によってけん引する機関車の種類が違うのです。そのため運転に慣れていない運転士がいると列車をうまく走らせられないこともあるそうです。東日本大震災で臨時列車を編成したときも、いつも通らないルートを走るため、講習会を開いたそうです。貨物の運転士たちはインタビューを受ける機会が少ないようで、ここぞとばかりに話してくれました。さまざまな苦労を知ってほしいという気持ちがあったのかもしれません。

── 鉄道ミステリーといえば、作家の西村京太郎さんの作品が有名です。

真保 さすがの西村京太郎先生でも「JR貨物は書いていないぞ」と気づいたときはひそかに喜びました。

── 列車が走るルートも実際に確認したそうですね。

真保 発電用の風車やトンネルの数などを間違えないように、メモを片手に特急を乗り継いで確認しました。ほぼ同じルートを乗りましたが、(貨物専用線で主にトンネル内を走る…

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