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「満州の大空を飛んだ祖父を主人公に投影した」――歴史冒険小説『空の王』新野剛志さんインタビュー

「祖父が飛行士だったことは、僕が小学校に入るころに母から聞きました」 撮影=中村琢磨
「祖父が飛行士だったことは、僕が小学校に入るころに母から聞きました」 撮影=中村琢磨

『空の王』を刊行 新野剛志 作家/8

 日中戦争前夜の満州国を舞台とした長編『空の王』 (中央公論新社) を新野剛志さんが今年5月に上梓した。航空アクションものだが、主人公が操縦するのは戦闘機ではなく新聞社の航空機。飛行士だった祖父の話を基にしたという。

(聞き手=井上志津・ライター)

「満州の大空を飛んだ祖父を主人公に投影した」

「逃げることで迷惑をかけた。でももしも赤の他人に相談されたら『逃げちゃダメだよ』とは言えないです」

── 今年5月に刊行した小説『空の王』(中央公論新社)は、読売新聞のデジタル会員サービス「読売プレミアム」(現在は「読売新聞オンライン」に統合)で、2016年12月から1年3カ月にわたって連載されました。構想はいつごろからあったのですか。

新野 戦前を舞台にした歴史冒険小説を書いてみたいという気持ちは、デビュー当時から持っていました。それと祖父が朝日新聞社の飛行士だったことを結びつけて考えたのは10年ぐらい前からです。まだ写真の電送技術などなかった時代。中国大陸から日本へ写真や原稿を運んでいたそうです。「そのころの新聞社の飛行士は花形だったんだよ」と母が話していたのを覚えています。張作霖爆殺事件(1928年)の、新聞や教科書に載っている有名な写真も、祖父が運んだんですよ。(情熱人)

── タイトルはどのように決めたのですか。

新野 空に上がれば、そこは自分の王国で自分が王。そうでなければ飛行士なんてやってられないよ、という気持ちを込めて、連載前に割とすんなり決まりました。

── 小説を書くにあたっては、叔父さんがおじいさんの資料をくれたそうですね。

新野 はい。父の弟です。自分が年を取ってきたので、僕が資料を持っておきなさいということでした。連載を始める2~3年前のことです。資料は大きな木箱で二つ分ほどありました。祖父は「霜鳥(そうちょう)」という俳号を持っていて、戦後、米軍に航空管制を敷かれたことを嘆いて詠んだ「わが空はわが空ならず秋の空」という句も残しているんです。そんな祖父が書いた文章や写真、パスポートや操縦士免状などが遺(のこ)されていました。

関東軍からの「ある荷物」

『空の王』の舞台は昭和11(1936)年の満州国・奉天。新聞社の飛行士・鷲尾順之介は、戦死して英雄になった兄が戦争を阻止する計画を立てていたことを知る。その直後、関東軍の梶清剛大尉から、ある「荷物」を内蒙古で引き取り、空輸しろと命令され、愛機ロックヒード・ベガに乗り込んだ。武装していないベガで空に上がった順之介を待ち受けていたものは……というストーリーだ。新野さんの祖父・新野百三郎さんは脇役として実名で登場しているが、順之介の造形にも祖父が投影されている。

── おじいさんを知る親戚などに取材はしたのですか。

新野 あえて話は聞かず、祖父像は資料から想像しました。僕が想像したのは「軽い」感じ。単に明るいとか面白いとか軽薄というのではなくて、軽やかさでした。それが当時の飛行士の典型なのではないかと思い、順之介のキャラクターも作りました。

── 連載はスムーズに進んだ?

新野 はい。でも、実を言うと連載後に大幅に改稿したんです。例えば、連載中、内蒙古は登場していなかったんですよ。連載が終わってから、編集者となんだか話がもたつくねという話になりまして。中国の奥地まで飛行機で行きますが、その後は徒歩が多いとか(笑)。民間の飛行機なので、戦闘機のように戦うことが難しかったんです。それで内蒙古や活仏(かつぶつ)の少年が出てくるストーリーに一から書き直したので、出版までかなり時間がかかってしまいました。

── 連載時の読者は二度楽しめますね。

新野 お金を払って読んでくださった読者に申し訳ない思いもありましたが、自分自身、納得できるものにしたいと。順之介のはねっかえりで快男児的なキャラクターは変わっていないですし、長い時間をかけて直したかいがあったと思える冒険小説になったので、満足しています。

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── 『空の王』は読者にどんなところを楽しんでもらいたいですか。

新野 時…

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