「演劇人はもっと言いたいことを言え」 劇作家、演出家ふじたあさやさんインタビュー
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川崎市の市民劇団「劇団わが町」が、2022年6月に設立10年を迎える。劇団を立ち上げたのは、劇作家・演出家のふじたあさやさん。なぜ市民劇団に取り組むのか。コロナ禍での演劇活動の状況などを語ってもらった。
(聞き手=和田肇・編集部)
「演劇人よ、言いたいことを言え」
「ヨーロッパでは、政府・自治体が市民サービスの一環として、演劇を支援するのは常識になっています。表現の自由を守るためです」
川崎市アートセンター・アルテリオ小劇場(川崎市麻生区)を拠点とする市民劇団「劇団わが町」は、2012年6月に設立された。年齢を問わず市民から劇団員を募集し、最初の募集では4歳から64歳まで、多くの市民が応募した。現在は10歳から81歳まで47人が所属する。ふじたあさやさんの作・演出で「わが町しんゆり」「夢みる人」「ザ・チェーホフ」「クリスマスキャロル」「みすゞ凛々」「題未定」「グスコーブドリの伝記」など多くの作品を上演している。
── 市民劇団が誕生して10年近くになります。なぜ、市民劇団を立ち上げたのですか。
ふじた 欧州では、自治体の市民サービスの一環として、行政が演劇活動を支援することが常識になっています。私が書いた児童劇をドイツのドレスデンの劇団が上演するというので、現地に行ったことがありますが、そこには子供のための常設劇場があり、毎晩、芝居を上演していました。その劇団の関係者に、運営状況について聞くと、劇団運営に必要な経費のうち、入場料収入は全体の7%程度で、残りは国と自治体による補助だという。「ヨーロッパではこれが当たり前ですよ」と言われました。(情熱人)
── 日本とはかなり違いますね。
ふじた 「日本で行政がそんなに補助をしたら、劇団の方が逆に気を使ってしまう」と言うと、そのドレスデンの劇団関係者は「何を言っているのですか。表現の自由を守るために、政府がお金を出しているのです」と反論されました。私はそれを聞いて本当に恥ずかしくなりました。それほど日本は「芸術・文化の後進国」ということです。
日本では、行政が演劇活動に関与すると、制約が生じると考えてしまいますが、欧州では、自由にものを言うために、政府がコントロールするというのです。この考え方の違いに私は衝撃を受けました。そこで、私が住む地元の川崎市に行政サービスの一環として、演劇をする場所の提供と市民劇団設立を働きかけたわけです。
児童劇団の現状「涙が出る」
── 演劇はコロナ禍で大きな打撃を受けているそうですね。
ふじた どの劇団も苦労しています。小学校で公演する児童劇では、「3密」を避けるために、学校側が1回の上演入場者数を100人程度に制限しています。それまでは全校生徒約500〜600人に一度に見せていました。しかし、100人程度だと、1日に5〜6回も上演しないといけない。これは劇団員にとっては酷です。料金は生徒1人当たりの計算になるので、何回やっても1回分の出演料です。それでも児童劇団は「コロナ禍の中で子供たちに笑顔が戻るのなら」と頑張ってやっている。本当に涙が出る話ですよ。全国の児童劇団がそうした状態です。
── 大変な状況ですね。演劇に対する理解が十分ではないということでしょうか。
ふじた 日本では、100年ぐらい前まで、芝居をやる人間は「河原乞食(こじき)」と言われ、差別的に見られていました。今もその名残があります。1924年に当時の岡田良平文部大臣が、学校劇禁止令というものを出しました。文部大臣がこんな命令を出すなど世界的にも珍しい。その頃、花巻農学校で学校劇を作るのにやっきになっていた宮沢賢治は、禁止令に絶望して学校に辞表を提出したといわれています。
結局、今も変わっていない。禁止令こそありませんが、「好きで演劇をやっているのだから、やりたければどうぞご勝手に」という考え方です。それではいけないのです。
中学で演劇に興味
── ご自身が演劇の世界に入られた契機は何ですか。
ふじた 私が通った中学には、福田善之さんや小沢昭一さん、加藤武さんなど、後に演劇界で活躍なさる先輩がいました。終戦の翌年46年に、学校で演劇部を作ろうという話になって、1年生がかき集められました。それで私も中学1年生で演劇部に入りました。それが出発点です。
そのまま早稲田大学に進み、在学中に福田善之さんと「富士山麓」という劇を作…
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週刊エコノミスト
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