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「映画でできなかったことをやれるなら、と引き受けた」 ネットフリックスドラマ「新聞記者」監督の藤井道人さんインタビュー=りんたいこ

「自分たちの作品で、時代を1センチでもよくできれば」 撮影=蘆田剛
「自分たちの作品で、時代を1センチでもよくできれば」 撮影=蘆田剛

 2019年の大ヒット映画「新聞記者」がネットフリックスのオリジナルドラマとして生まれ変わり、1月13日から世界同時配信される。映画に続いて監督を務めた藤井道人さんに、監督再登板の経緯や映画などについて聞いた。

(聞き手=りんたいこ・ライター)

「映画でできなかったことをやれるなら、と引き受けた」

「動画配信はこれから間違いなく主流になる。日本にはこのコンテンツがある、と世界の果てでも話題になる作品を作りたい」

── 動画配信サービス「ネットフリックス」のオリジナルドラマ「新聞記者」で監督を務め、1月13日から世界同時配信されます。やはり監督を務めた映画「新聞記者」(2019年)同様、河村光庸プロデューサーから声がかかったそうですね。

藤井 河村さんは、「ヤクザと家族 The Family」(21年)といった映画を一緒に作ったパートナーであり、今となっては親子のような関係。その彼がやりたいと言っている。それに、「監督は藤井で」という要望がネットフリックスからあったそうです。ネットフリックスが(15年に)日本に上陸したころから、僕は新作を作らせてもらっていた。その二つの理由から、映画でできなかったことをやれるのなら、という条件付きで引き受けました。(情熱人)

── 映画でできなかったこととは?

藤井 自分の視点を入れることです。映画版は前任の監督が降板し、突然、河村さんから電話がかかってきた。脚本を書いた詩森ろばさんが推薦してくれたそうです。でも、脚本を読んでも「官僚vsメディア」の対立構造がすごく強くて、僕にはこの映画で何を伝えたいのかが分からなかった。そこで、自分の視点に近い存在となるコンビニ店員の役を入れたいと、クランクインの3カ月前に進言しました。

 でも、それをやると脚本の大幅な改造になるし、詩森さんが書かれた脚本に僕が手を入れるのも筋が違うと思ってできなかった。だから、今回は絶対それを描きたい。具体的には、新聞配達をしながら大学に通う就活生がその役で、僕が監督した映画「青の帰り道」(18年)で一緒に仕事をした俳優の横浜流星さんを充てたい、と決めていました。

目に見えない空気に躊躇

 映画「新聞記者」は、東京新聞の記者・望月衣塑子さんの同名ベストセラー(角川新書)を原案にしていた。一方、ネットフリックス版の「新聞記者」は、藤井さんが、山田能龍さん、小寺和久さんと共同で脚本を執筆した、6話からなるオリジナルドラマだ。米倉涼子さん演じる東都新聞社会部の記者・松田杏奈が国有地売却を巡る問題を取材する中、証拠隠滅による公文書改ざんが発覚。改ざんを強いられた職員は自殺に追い込まれ、杏奈が真相を追うというストーリーだ。

 真相究明に奮闘する記者、首相官邸の圧力を受けた官僚、改ざんを強いられた現場の職員、さらに、市井の若者として、横浜さん演じる就活生・木下亮が登場する。亮はもともと政治に無関心で新聞も読まない青年だったが、ある出来事から公文書改ざん事件に巻き込まれ、運命を変えられていく。彼こそが、藤井さん自身の視点であると同時に、政治に関心のない視聴者を本編に誘い込む役割を果たす。彼らの人物背景を丁寧に描くことで、映画よりも人間ドラマを色濃く出したのが大きな特徴だ。

── そもそも映画版のオファーを河村さんから受けた時、藤井さんは「時事問題に詳しくないから」と2度断ったと聞きます。

藤井 2度どころじゃありません。何度も断りました。内容が内容だけに、ある種の保身というか、僕にも守るべき組織(10年に藤井さんが設立した映像集団「BABEL LABEL」)があり、そのメンバーに迷惑がかかるのではないか、僕自身も今後映画を作れなくなるのではないか、という、目に見えない空気に躊躇(ちゅうちょ)したのは事実です。

 でも、河村さんに、「君みたいな政治に興味がない人間だからこそ、この作品を作る意味がある」と説得された。いわば“ギャンブル”ですよね。そのギャンブルは仲間に、「僕は正しいと思ったのでやることにした」と言えると思ったのです。

── 権力とメディアのあり方もテーマの一つでした。作るうえで心掛けたことは。

藤井 どちらかの意見に偏らないという方針は、取材の時から死守しました。国を守る人たちには国を守るという大義があって、メディアの人たちにはメディアの人たちとしての正義がある。官…

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