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週刊エコノミスト Online ロングインタビュー情熱人

「女子レスリングの父」退任 福田富昭 日本レスリング協会前会長/25

「ナショナルトレーニングセンター長室にデーンと座り、勝手に『初代センター長』になりました」 撮影=佐々木龍
「ナショナルトレーニングセンター長室にデーンと座り、勝手に『初代センター長』になりました」 撮影=佐々木龍

 この男がいなければ、伊調馨選手や吉田沙保里選手ら、五輪での輝かしい栄光はなかったと言っていい。18年間務めた日本レスリング協会会長を昨秋、退き、ここまでの激動の歩みを振り返ってもらった。

(聞き手=粟野仁雄・ジャーナリスト)

「浜口京子選手の笑顔は人気になると確信した」

「1965年の世界選手権で優勝した。けれど、次の五輪は目指さなかった。スポーツでは食べていけない時代だった」

── 昨年10月に18年間務めた日本レスリング協会の会長職を退任しました。昨夏の東京オリンピックでは、レスリングで男女合わせて金5、銀1、銅1の計7個のメダルを獲得しましたね。

福田 東京五輪では選手、コーチ、監督らの頑張りで一定の成績は残せたと思います。協会会長の職は早くから辞めると伝えていたのですが、理事会や評議会で「辞めないでほしい」と言われて続けることになりました。昨年秋のタイミングになったのも、「東京五輪が終わったら辞める」と約束していたのに、新型コロナウイルスの感染拡大で東京五輪が1年延期となったからです。(情熱人)

── 東京五輪では川井梨紗子選手(57キロ級)、友香子選手(62キロ級)が史上初の姉妹金メダルを獲得しましたが、そのお母さんの初江さんもレスラーでしたね。

福田 その昔、日本体育大学の道場でレスリングをしていた初江さんを、当時の笹原(正三)会長や私、協会専任コーチの木名瀬重夫君と指導しましたね。初江さんはその後、日体大の学生王者と結婚し、当時はおとなしい印象でしたが、今は金沢市でレスリング道場を切り盛りするたくましい女性ですね。

 五輪での活躍が目覚ましい日本レスリング。中でも目立つのが女子選手で、伊調馨選手(4連覇)や吉田沙保里さん(3連覇)をはじめ、数多くの名レスラーを輩出する。その立役者となったのが、「女子レスリングの父」とも呼ばれる福田さんだ。女子レスリングが五輪で正式種目となったのは、2004年のアテネ五輪から。福田さんの地道な女子選手育成の努力だけでなく、国際レスリング連盟(FILA、現世界レスリング連合=UWW)への五輪正式種目採用の働きかけもあった。

プロレス人気に着目

── 女子レスリングにかかわったきっかけは?

福田 当時の笹原会長の勧めで1984年、フランスへ女子レスリングの勉強に行ったことです。とてもレベルが高かったんですよ。けれど、当時は日本に女子選手はおらず、焦りも感じました。翌年の国際大会に柔道三段の女性選手を送りましたが、惨敗してしまいました。そこで、一から女性レスラーを育てなくてはと痛感したのです。

── ただ、選手を探すのも大変だったのではないですか。

福田 当時、日本では女子プロレスが大人気だったことに目を付けました。全日本女子プロレスの松永高司社長に「オーディションに落ちた選手がほしい」と頼んで譲り受け、私や木名瀬君が鍛えました。「女子プロレスラーになるにはアマレスから」をスローガンにしてね。吉村祥子選手らがみるみる強くなり、89年の女子世界選手権では、金2、銀2、銅3を取ってくれて団体優勝し、注目され始めました。

── 91年の世界選手権では、山本美憂選手や飯島晶子選手らも活躍しましたね。その直前には、新潟県十日町市の廃校を私費で買い取って合宿所にしました。

福田 金ばかり投入して妻からは怒られました……。その後、注目したのが浜口京子選手で、あの笑顔は国民的人気になると確信しました。父親は人気プロレスラーのアニマル浜口さん。私は「技術的なことはいいから、大きな声をかけ続けてください」とだけお願いしたんです。彼はボディービル出身でアマ…

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