教養・歴史書評

資産形成の授業を受けた真面目な高校生が真っ先に読むべき書=評者・田代秀敏

『40代から始める 攻めと守りの資産形成 人生GDPの増やし方』 評者・田代秀敏

著者 井出真吾(ニッセイ基礎研究所上席研究員) 日経BP 1650円

高校生も理解できる平易さ

インフレに勝つ戦略を解説

「40代から始める」とタイトルにあるものの「30代以下はもちろん、50代以上の方々にも役立つ内容です」と著者が述べている通り、何歳からでも有用な一冊である。

「超低金利の長期化と物価上昇」、つまり異次元金融緩和継続とインフレーションとは、現金・預金だけで資産を保有する人々を「実質的な元本割れ」のリスクに直面させている。

 株式や債券などの金融商品を活用して資産を形成しなければ、老後が不安となり、現在の仕事や家事などの本業に専念できなくなるだろう。

 あまり知られていないようだが、資産形成は高等学校で今年度から必修となっている。1994年度から男女とも必修である家庭科で、「生活における経済の計画」の一環として資産形成が教えられている。

 これは「勤労と貯蓄とに励むだけでは豊かな老後を過ごせない」ことを、政府が高校生に宣言しているに等しく、正に画期的である。

 教科書では、金融商品を財産管理に有効に活用することが必要であるのに、日本では現金・預金が好まれることで運用リターンが非常に低いことが説明されている。

 しかし、資産形成を実際に行う方法は、自主的な研究課題として示されているだけで、説明が一切ない。

 授業を受けて資産形成の方法を知りたくなった真面目な高校生が、真っ先に読むべきは本書である。

 金融の知識をまったく前提せずに「基本の基本」から、資産形成の必要性と具体的な方法とを、一歩一歩説明していく手際は見事である。

 金融市場のストラテジストとして20年以上、機関投資家・個人投資家向けの情報提供を続け高い評価を得ている著者は、説得のストラテジー(戦略)にも長(た)けている。

 例えば、「高リターンには高リスクがつきもの」や「つみたて投資は一括投資よりも有利」といった「資産運用にまつわる都市伝説」が、本書の冒頭に11個掲げられている。そうした「都市伝説」を一つでも真に受けている人にとって、本書は隅から隅まで熟読するに値する。

 また、「『給料が上がらない!』への対抗策は『株主』になること」などを詳しく説明する四つのコラムは、金融に対する認識を資産形成の観点から一段と深めてくれる。

 客観的で誰にでも共通の内容であるデータの分析を得意とする著者が、長い職業的経験から得た知見を惜しげもなく開陳する本書は、超低金利とインフレーションとの下で超高齢社会を生きていかなければならない日本人への「福音」である。

(田代秀敏、シグマ・キャピタル代表取締役社長チーフエコノミスト)


 いで・しんご 東京工業大学卒業後、日本生命保険相互会社に入社。その後、ニッセイ基礎研究所に入所し、2018年より現職。日本ファイナンス学会理事。日本証券アナリスト協会認定アナリスト。

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