教養・歴史書評

返品率低減2策 AIデータ分析&書店員の育成=永江朗 

書店員の“目”が返品率を改善

 出版業界にとって長年の、そして喫緊の課題は返品率の低減である。出版科学研究所のデータによると、ここ数年、書籍の返品率はやや低下傾向にあるが、それでも32%台。雑誌は約40%に高止まりしたままだ。

 丸紅と出版大手3社(講談社、集英社、小学館)が共同で出資して新会社「パブテックス」を今年3月に設立したのも、究極の目的は返品率を下げることだといってもいい。

 データ活用支援サービス会社、フライウィールの今年6月のプレスリリースによると、同社の需要管理サービスを先行導入したカルチュア・コンビニエンス・クラブの書店「TSUTAYA」では、書籍の返品率を13%にまで下げることに成功したという。

 返品率が高いのは、配本の量とタイミングが適切でないからである。パブテックスもフライウィールも、基本的な考え方は同じだ。大量のデータを集めてコンピューターで分析し、その予想に基づいて配本しようというものである。

 だが、まったく違うアプローチで低返品率を実現している事例もある。出版社のトランスビューが代行する出版社と書店の直接取引である。出版社は取次会社を介さず、書店から注文を受けた冊数だけ出荷する(注文出荷制)。大手取次が採用する「見計らい配本」(書店が注文していない本を裁量で送ること)はしない。返品可能であるにもかかわらず、返品率は10%未満の出版社がほとんどだ。

 注文出荷制だと返品があまり生じないのは、書店側が本をよく吟味し、自店の顧客層や販売力などを冷静に分析した上で発注数を決めているからだ。AI(人工知能)ではなく書店員の目と経験と勘が低返品率をもたらしている。取次マージンがない分、書店の利益率が高いこともモチベーションにつながっている。

 AIの活用は、返品率をある程度は改善するだろう。だがそれで書店店頭の魅力は増すのだろうか。投資すべきはAIではなくて、書店現場の人財ではないのか。委託配本や定価販売(再販制)も含めた業界慣行の大胆な見直しも同時に進めなければ、返品率の根本的な改善には至らないのではないだろうか。

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