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投資・運用投資の達人に聞く アフターコロナの資産形成術

投資の達人に聞く㉘ベイリー・ギフォード(上)「世界の成長株への長期投資」を愚直に追求――銘柄平均保有期間10年で成長の果実を全て摘み取る

LTGG戦略の運用成績 (出所:三菱UFJ国際投信)
LTGG戦略の運用成績 (出所:三菱UFJ国際投信)

 売り上げや利益の大きな成長が期待できる銘柄(グロース株)に長期間、腰を据えて投資し、決して売らない。そして最後には業績の拡大を反映した株価の上昇を丸ごと享受してリターンを最大化する。これは、株式投資における王道の一つだ。そして、事実、この手法で、米投資家のウォーレン・バフェット氏は億万長者になった。

銘柄を保有し続けることの難しさ

 だが、実際に、個人投資家がこの手法を試そうとしてもハードルは高い。まず、グローバルな視点で、長期に成長する銘柄を探すのはなかなか困難だ。仮に、長期に成長する有望株を見つけても、相場の下落局面で売らずに保有し続けるのは、もっと、難しい。たいていは、相場の下落に右往左往し、株価が回復すれば慌てて、利食い売りを出してしまう。そして、その後、その銘柄が大きく上昇したことを知り、地団太を踏む。個人投資家なら誰でも経験があるだろう。

 ことほど左様に難しい「成長株に長期投資する」ことを会社の運用哲学として徹底し、世界的な評価を得ているのが、英ベイリー・ギフォード社だ。その道の名手として、世界中の機関投資家や個人の資金を受託し、運用・助言資産残高は2021年6月末で54兆円に上る。そのうちの46%が長期で運用する必要がある年金基金だ。

パートナーによる共同経営で外部株主の圧力を回避

 同社は歴史の古さなど様々な注目点があるが、最大の特徴は、「成長株への長期投資」を可能とする運用会社としてのガバナンスだろう。外部の株主はおらず、51名のパートナー(2022年6月現在)が共同経営している。一般の運用会社の場合、四半期ごとの運用成績が悪いと、外部の利害関係者から、「運用方針を変えてはどうか」と圧力がかかる。せっかく有望な銘柄を発掘しても、その銘柄の長期成長の果実を摘み取る前に泣く泣く手放すことになりかねない。

 しかし、ベイリー・ギフォードの場合は、外部の利害関係者からの圧力とは無縁だ。5~10年先を見据えた長期の視点から銘柄を選択し、保有し続けることができる。

 同社のメーンの運用戦略は、LTGG(Long Term Global Growth)戦略と呼ばれている。文字通り、成長が期待できる世界中の株式に、長期間、投資するものだ。

エジンバラ市の「ロイヤルマイル」(同市HPより)
エジンバラ市の「ロイヤルマイル」(同市HPより)

長期投資の本当の敵は、「持たざるリスク」

 このLTGG戦略を採用した代表的なファンドの銘柄の平均保有期間は、22年1月末で9.7年。日本の代表的なアクティブ投信であるレオス・キャピタルワークスの「ひふみ投信」が21年9月末で0.9年であることと比べるとその長さが実感できる。

 なぜ、長期保有することが重要なのか。ベイリー・ギフォードのパートナーで、LTGG戦略チームヘッド兼意思決定者のマーク・アーカート氏は、「企業が持つ競争優位性や経営者の経営手腕は少なくとも5年という期間が経過して初めて明らかになるため」と説明する。その際に気を付けなければいけないのは、株価には「ダウンサイド(下落)リスクだけではなく、アップサイド(上昇)リスクがある」ことだという。「投資における最大損失は、投資額に限定されるが、投資成功時のリターンは理論上、無限大」だからだ。「株価は初期投資額の数倍、数十倍に膨らむ可能性がある。だから、保有し続けないと、『持たざるリスク』を負うことになる」(アーカート氏)。

投資したアマゾンは81倍、テスラは113倍に

 仮に40銘柄で構成されたファンドのポートフォリオのうち、39銘柄が市場平均並みのリターンでも、残りの1銘柄が100倍になれば、ファンド全体では、市場平均を大きく上回るリターンを得られることができる。そして、実際にLTGG戦略で保有した米アマゾンの株価は04年11月の投資開始から22年3月末までに81倍、テスラは13年4月の投資開始から22年3月末までに113倍となった。

 LTGGを採用した代表的なファンドの運用成績は、設定開始の2004年2月末を100とした場合、22年3月末で1059まで上昇している。その間、代表的な世界株指数であるMSCIオールカントリー・ワールドインデックス(ACWI)は438で、LTGGのパフォーマンスはその2倍強だ。

LTGGの運用体制(出所:ベイリー・ギフォード、三菱UFJ国際投信)
LTGGの運用体制(出所:ベイリー・ギフォード、三菱UFJ国際投信)

設定来の利回りは年率17%

 このLTGG戦略を採用したファンドを三菱UFJ国際投信が日本で2019年1月31日に設定したのが「ベイリー・ギフォード世界長期成長株ファンド(愛称:ロイヤル・マイル)」だ。愛称のロイヤル・マイルは、ベイリー・ギフォードの本拠地であるスコットランド首都エジンバラの旧市街の宮殿とエジンバラ城を結ぶ1㍄(約1.6㌔)の道に由来する

 投信評価会社モーニングスターによると、6月末時点の純資産総額は574億円。設定来の利回りは、年率で17.26%と「国際株式・グローバル・除く日本」のカテゴリーの173本中、第6位の成績となっている。

 6月末のファンドの組み入れは39銘柄と少ない。1位は、中国でフードデリバリーや食品雑貨の販売、レストラン評価サイトなどを運営する電子商取引プラットフォーム企業「メイチュアン」が1位で、2位に米テスラ、3位に米アマゾンと続く。

5分野10の指標で銘柄を選定

 LTGGは銘柄選択では、国や地域、業種、時価総額にとらわれず、長期の視点で高い成長が期待される銘柄をボトムアップ形式で厳選する。具体的には、①産業の魅力度、②企業の競争力、③財務基盤の強さ、④経営陣の資質、⑤株価のバリュエーション――から構成される10のチェックポイントで審査する。例えば、①産業の魅力度では、「今後5年で売り上げが2倍になる余地があるのか」、②企業の競争力では、「競争優位性や企業文化の差別化などが見極められるか」、③財務基盤の強さでは、「資本利益率は魅力的か、上昇するのか」、④経営陣の資質では、「設備投資、配当。撤退戦略等、どのように資本配分をしているのか」、⑤バリュエーションでは、「株価が5倍以上になる可能性」などを見る。

ベイリー・ギフォードの銘柄選定の基準(出所:ベイリー・ギフォード、三菱UFJ国際投信)
ベイリー・ギフォードの銘柄選定の基準(出所:ベイリー・ギフォード、三菱UFJ国際投信)

「オイラー図」でテーマの革新度や銘柄の分散を視覚化

 そのうえで、18世紀のスイスの数学者の名を冠した「オイラー図」を用いて、ポートフォリオにおけるリスクや銘柄の分散の度合いを視覚化している。オイラー図のそれぞれの円はテーマ、円の大きさはそれぞれのテーマの革新性の高さ、銘柄の文字(フォント)の大きさは、銘柄への確信度を表している。最新のオイラー図を見ると、テスラは「未来の移動」と「エネルギー転換」の二つの円の中に、アマゾンは「小売りの革命」の中に分類されている。オイラー図は、同社がポートフォリオを構築する際の道筋も示すという。

LTGG戦略のオイラー図(2022年3月時点。出所:ベイリー・ギフォード、三菱UFJ国際投信)
LTGG戦略のオイラー図(2022年3月時点。出所:ベイリー・ギフォード、三菱UFJ国際投信)

新卒採用、長期雇用で運用哲学を浸透

 長期投資を実現するには、仮に、運用担当者が変わっても、その運用方針が継続される必要がある。そのため、同社では、アナリスト、運用担当者を新卒から採用し、長期雇用で社員全員に運用哲学を浸透させている。LTGGの運用チームのヘッドのマーク・アーカート氏は、1996年にベイリー・ギフォードに新卒で入社し、2003年からLTGG戦略を担当している。

三菱UFJ国際投信の吉川雄貴さん(同社提供)
三菱UFJ国際投信の吉川雄貴さん(同社提供)

一人一人に根付く会社の理念

 ベイリー・ギフォードのファンドの日本国内でのマーケティングを担当する三菱UFJ国際投信商品プロモーション部の吉川雄貴・マネージャーは、「実際に、ベイリー・ギフォードの人とやり取りさせてもらうと、どの役職の人と話しても、長期投資に対する信念や運用哲学が浸透している。会社全体で、グロース株にいかに長期投資するか、個別株のファンダメンタルズ分析をいかに精緻にやっていくのか。こうした考えや理念が、一人一人に根付いているのを感じる」と話す。

 では、実際に、「ロイヤルマイル」にどのような銘柄が、どういう理由で組み入れられているのか、ベイリー・ギフォードが言う「長期投資」の哲学は本物なのか。次回、見ていきたい。(稲留正英・編集部)

(続く)

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