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投資の達人に聞く㉗コモンズ投信(下)変化に着目する「ザ・2020ビジョン」ファンド、ソニーの変革を後押しした伊井社長の一言

コモンズ投信の伊井哲朗社長は東京五輪の誘致決定で、「ザ・2020ビジョン」ファンドの設定を決意した
コモンズ投信の伊井哲朗社長は東京五輪の誘致決定で、「ザ・2020ビジョン」ファンドの設定を決意した

 コモンズ投信は、「コモンズ30」のほかに、2013年12月に設定したもう一つのファンドがある。「ザ・2020ビジョン」だ。

 伊井社長は、「非財務情報を分析し、会社を長期で見るという点ではコモンズ30と一緒だが、5年から10年先の変化の大きな企業を抜き出して投資するのが違い」と説明する。

 ザ・2020ビジョンの21年12月末の純資産残高は76億円。投信評価会社のモーニングスターによると設定来の騰落率は昨年12月末時点で159%だ。3年間の平均年率利回りで27.3%、5年間で14.4%である。3年間の平均年率利回りでは「国内中型グロース」カテゴリーで、77本中3位の成績を付けている。

メルカリ、マネーフォワードなど新興株にも積極投資

 組み入れ銘柄数は約50で、21年12月末時点での組み入れ上位はレーザーテック(比率3.4%)、ソニーグループ(同3.4%)、村田製作所(3.2%)、KADOKAWA(3.0%)、リクルートホールディングス(2.9%)などとなっている。市場別の組み入れ比率は東証1部が75.3%に対し、東証マザーズが12.6%、JASDAQが8.9%。コモンズ30が時価総額の大きな国際優良株が中心なのに対し、ザ・2020ビジョンは中小型株も積極的に組み入れているのも特徴だ。「メルカリ、マネーフォワード、ラクスルなどの新興企業にも、IPO(株式公開)時から投資している」(伊井社長)という。

 投資先の「変化」は二つの面で見る。一つ目は、業績の非連続的な伸びや急回復などの定量面の変化。もう一つは、経営者の交代、コーポレート・ガバナンス(企業統治)やビジネスモデルの変化、業務提携、リストラなど定性面の変化だ。運用手法もダイナミックで、平常時は株式の組み入れ比率を100%近くにするが、株価の下落リスクが大きな局面では、現金比率を50%まで高めることが可能だ。

新たな企業文化の導入で変化したソニーグループ

 伊井社長は、「変化」という点で典型的な投資先としてソニーグループを挙げる。出井伸之氏がトップだった2000年のITバブル時に株価は最高値を付けたが、その後、ハワード・ストリンガー体制のもと、経営は低迷。しかし、12年に平井一夫氏、18年に吉田憲一郎氏が社長に就任し、状況に変化が表れ始める。

 カギとなったのは企業文化の変革だったと伊井社長は見る。平井氏は「One Sony」を掲げ、バラバラだったソニーを一つにまとめるのに尽力した。後任の吉田氏は「Sony's Purpose(存在意義) & Values(価値観)」を経営指針として掲げた。ソニーは19年1月にソニーのPurpose(存在意義)を、「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」と定めている。

ソニーの変革を投資家として後押し

「吉田さんが社長に就任された翌年、吉田さんとお会いする機会があり、『ソニーの設立趣意書は大事にするが、新しい概念、企業文化を作りたい、どう思いますか』と聞かれた。私はぜひ、やった方が良いとお話をさせていただいた」(伊井社長)。

 1946年に創業者の一人である井深大氏が起草した「設立趣意書」は「自由闊達にして愉快なる理想工場の建設」の文言が有名だが、戦後からの復興を色濃く反映したもの。組織がグローバル化し、半分以上がコンテンツビジネスになっている現状には合わない部分があった。

 ソニーは吉田社長の下、新たに「Purpose」を企業文化の最上位に掲げ、全世界の社員のベクトルを一つにまとめた。その結果、21年3月期はゲームや音楽などのエンターティンメント事業が伸び、業績、株価とも過去最高を更新。最近は、EV(電気自動車)市場への本格参入も表明した。

ソニーグループは、企業文化の変革が投資のきっかけとなった(同社の吉田憲一郎社長) Bloomberg
ソニーグループは、企業文化の変革が投資のきっかけとなった(同社の吉田憲一郎社長) Bloomberg

Purpose経営の強さ

「吉田さんだけが良かったわけではない。前任の平井さんとの連携によって、Purpose経営は今、ものすごく強いソニーの文化になっている。こうした企業には積極的に投資できる」(伊井社長)。ザ・2020ビジョンは、ソニーには平井社長時代の2014年3月期に大幅な赤字を計上した時から投資しており、投資期間は8年になるという。

 このように、「変化」に着目するザ・2020ビジョンだが、「コモンズ30」の選定軸である「五つの軸」の考え方も生かされている。コモンズ30と同じ運用チームがリサーチを行っていることから、「変化」による成長を実現するための競争力や経営力、それらを維持するため、あらゆるステークホルダーと向き合い経営を理解してもらう対話力、それを底辺で支える企業文化を、自ずと分析することになる。

EV用モーターで圧倒的な日本電産に投資

 ザ・2020ビジョンでは、ソニー以外にも、コモンズ30では組み入れられていない銘柄に投資している。代表的なのが日本電産だ。投資委員会では、コモンズ30への組み入れについて、散々、議論してきたが、「永守重信社長の後継者の姿がなかなか見えない」(伊井社長)ことがネックとなっていた。コモンズ30は30年目線での投資になるので、持続可能な意思決定体制に確信が持てないと投資に踏み切れない。一方で、「EVのモーターでは圧倒的に強い。5~10年先の変化と言うことでは投資ができる」(伊井社長)。昨年12月末では、日本電産の組み入れ比率は2.4%と9番目の組み入れ銘柄となっている。

日本電産にはEVモーターの圧倒的な強さから、その変化率に期待して投資した(同社の永守重信社長) Bloomberg
日本電産にはEVモーターの圧倒的な強さから、その変化率に期待して投資した(同社の永守重信社長) Bloomberg

ファンドの設定は、東京五輪の誘致がきっかけに

 ザ・2020ビジョンファンドは13年9月の東京五輪の誘致決定が設定のきっかけになった。伊井社長は、「13年に2020年の東京オリンピック、パラリンピックの誘致が決まった時に、どうしてもこのファンドをやりたいと、社内の合意を得て始めた」と話す。超長期の景気循環の一つにコンドラチェフの60年のサイクルがある。これは、30年ごとに景気の山と谷を付ける。日本経済の場合、前回は1960年から90年に向け、景気の山を登った。64年には第1回の東京五輪があり、その後、世界第2位の経済大国に上り詰めた。

 だから、2020年から再び、山を30年間上るのではないか。超高齢化社会の日本は課題先進国でもあり、働き方やヘルスケア分野のイノベーションで世界をけん引する素地も、それを支えるテクノロジーもある。そうした考えから、2回目の五輪が予定されていた2020年を起点に日本が大きく変化することをテーマにしたファンドを作ろうとしたという。

オンライン診療やオンライン教育銘柄が値上がり

 実際、2020年度の1年間で見ると、「ザ・2020ビジョンのリターンは90%ちょっと。TOPIXが42%なのでその2倍で、日本株のアクティブファンドでは圧倒的に一番リターンが高かった」(伊井社長)。新型コロナの感染拡大が、社会・経済の変革のスピードを変革させ、組み入れていたオンライン診療やオンライン教育関連銘柄が大きく値上がりした。

 投資する顧客層は、「割とマーケットが好きな人は、銘柄も値動きも躍動感があるザ・2020ビジョンを選ぶことが多い。一方、コモンズ30は安定して長期でリターンが出てくるので、安心して積み立てをする人には合っている」(伊井社長)。

顧客の99・5%が含み益

 現在、コモンズ投信の投資家数は直販で1万人弱、SBI証券や楽天証券など窓販ルートの顧客で5万人程度と言う。積み立てでファンドに投資している顧客の比率は業界最高水準の78%。含み益がある顧客の割合は21年3月末で99・5%で、投資の時間分散効果が如実に表れている。

 投資家向けには年間150回程度、セミナーを開催している。新型コロナの感染拡大前は、300人規模の大きな会場や本社の会議室などで対面で行っていたが、現在は、オンラインに切り替えている。「コモンズ30塾」では、コモンズの投資先企業と受益者の対話の場を設けている。ウエブサイトでは投資入門などの動画コンテンツも豊富に掲載している。

信託報酬の1%を社会活動家や障がい者スポーツに寄付

 また、コモンズ投信ではファンドの信託報酬の1%相当を、社会課題を解決する社会活動家や、障がい者スポーツ団体に、寄付している。これも、社会の様々なステークホルダーが集まる「コモンズ(共有地)」ならではの取り組みだ。

 渋沢栄一は、「個人がお金を持っているだけでは、水たまりと一緒で力にならない、それを、集めると小さな水たまりが大河になる」と言って、日本初の銀行を創設し、その資金で数々の産業を興した。コモンズ投信もファンドの運用を通じて、日本の社会や経済を変える「大河」になることを目指している。

(稲留正英・編集部)

(終わり)

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