投資・運用投資の達人に聞く アフターコロナの資産形成術

投資の達人に聞く㉖コモンズ投信(中)渋沢健氏と「顧客の長期の資産形成」で意気投合、顧客と3世代に渡る関係を築く

コモンズ投信の伊井哲朗社長は、国内の有力経営者からも、長期投資ファンドの設立を強く勧められたという
コモンズ投信の伊井哲朗社長は、国内の有力経営者からも、長期投資ファンドの設立を強く勧められたという

 コモンズ投信の伊井哲朗社長は大学卒業後、1984年に山一証券に入社。姫路支店での営業を経て、1990年代は本社の営業企画部に在籍した。当時は、株式売買委託手数料の完全自由化を99年に控え、75年に手数料の自由化を実施した米国で証券会社がどのようにビジネスモデルを変えたかを調査していた。伊井さんが注目したのが、米メリルリンチだった。メリルは個人顧客と長期で付き合う方針が明確で、調査のために訪れた米国では、祖父・父・自分の3代に渡って、顧客と付き合うファイナンシャルコンサルタントが何人もいた。顧客の属性、リスク許容度に合わせ商品を提案し、ゆっくりと投資してもらうやり方を理想に感じた。

メリルリンチ日本証券の立ち上げに参画

 山一証券が97年に経営破綻すると、伊井さんは山一の営業基盤を受け継いだメリルリンチ日本証券(当時)の立ち上げに参画。98年からスタートした同社は、伊井さんが理想と考えた個人営業を展開した。「世界一のリサーチ力を使って、顧客にしっかりした商品をポートフォリオで提案する。ポートフォリオを組む際も、最低2時間はヒアリングした。顧客から喜んでもらえ、とても良かった」という。

 しかし、2001年のITバブルの崩壊で、状況は一変する。収益悪化に苦しんだメリルは世界中で株式のリテールを縮小し、富裕層に特化するようになった。メリルリンチ日本証券は投資銀行部門の下請けのような仕事となり、仕組債やヘッジファンド、果ては、サブプライムローン関連商品を、日本の個人に販売するようになった。「顧客の大きなライフサイクルに合わせて、資産形成するとは全然、違う話になった」(伊井社長)。

伊井哲朗社長は、山一證券の経営破綻後、メリルリンチ日本証券の立ち上げに参画した
伊井哲朗社長は、山一證券の経営破綻後、メリルリンチ日本証券の立ち上げに参画した

渋沢健氏との出会い

 こんな悩みを抱えていた時に、米国系ヘッジファンドの東京事務所代表で、ユニークな金融機関系のコミュニティサイトを運営していた渋沢健氏(現コモンズ投信会長)と出会った。渋沢栄一の玄孫である渋沢健氏は友人と、澤上篤人氏が創業したさわかみ投信のような直販型の投信会社の立ち上げを検討していた。一方、伊井氏はメリルで体験した顧客と長期の関係を築く新たな証券会社の設立を構想していた。「ビジネスモデルから何まで話をしていく中で、やりたいことは『顧客の長期の資産形成』だと分かった。証券と投信の違いはあるが、登る山は同じで、一緒にやることになった」(伊井社長)。

 澤上氏のアドバイスももらいながら、二人はコモンズ投信を07年に設立、創業メンバーの一人に、野村証券でアナリストを務めていた佐藤明氏(現バリュークリエイト代表取締役)が入った。佐藤氏は、日経新聞のアナリストランキングで企業総合1位を獲得した造船業界のトップアナリストだったが、経営者と本気で対話をして、30年単位の企業の成長ストーリーを描くアナリストレポートを書きたいとの希望を持っていた。最高運用責任者(CIO)には、米大手運用会社キャピタルの日本法人代表を長年務めた吉野永之助氏が就任した。吉野氏は、キャピタルで1983年から長期投資を実践し、その有効性を何よりも良く知っていたが、日本では、一般の個人投資家の間に長期投資で資産形成をする文化が全くなかったことを残念に思っていた。そこで、日本でも30年目線の長期投資のファンドを作りたいと、コモンズに参画した。

渋沢健会長とは、金融機関系のコミュニティサイトで出会った
渋沢健会長とは、金融機関系のコミュニティサイトで出会った

長期投資家を欲していた日本の有力経営者

 設立に際して、渋沢さんと伊井さんは、大手電機メーカーや大手コンビニエンスストアなど、国内の有力経営者に相談した。そこで分かったのは、日本の経営者も外部からしっかりと経営を見て、意見を言ってくれる長期投資家を必要としていたことだった。

 優れた経営者は誰しも、「裸の王様」になることを恐れている。経営者にとって良い長期投資家に出会うことは、大事な「壁打ち」の相手を得るということだ。だが、日本には、米キャピタルや英ベイリーギフォード、ウォルター・スコットなどの長期目線の投資家が存在しない。大手電機メーカーの経営者からは、TOB(株式の公開買い付け)などのコーポレートアクションが起こった時に、国内に長期投資家がいるのは凄く大事なことだと言われた。「そういう意見を聞いて、我々も設立へ意を強くした」(伊井社長)。

「投資家=経営者」である強み

 前回の(上)でも、紹介したように、コモンズの特色の一つに、企業経営者の目線で投資先を見ることがある。これは、伊井さん、渋沢さん自身が運用会社を創業した起業家であるためだ。「ウォーレン・バフェットがなぜ、『なぜ、ファンドのパフォーマンスが良いのか』と聞かれたときに、『秘訣の一つは、私は投資家だが、事業家で経営者でもあるから』と答えている」(伊井さん)。

 自身がオーナー経営者でもあることから、伊井さんは企業経営者の勉強会に呼ばれることが多い。その席では、「社員と飲みに行った方が良いのか」「秘書は何年で変えた方が良いのか」と言った「ベタベタの話も多い」という。「こういう視点は、経営者にしか分からない。そうしたものも投資判断に入れて、投資委員会でしっかり議論して決めるようにしている。そこに当社の特色がある」と伊井さんは強調する。

銘柄の平均保有年数は7~8年超に

 09年のファンドの運用開始から10年以上が経過したが、長期投資の実行は着実に進んでいる。「我々が会っている海外の著名な投資家でも一銘柄当たりの平均保有年限は7~8年だ。それに対し、コモンズは3~4年前から平均保有年限が7~8年を超えている」。同じ独立系のさわかみ投信やひふみ投信は銘柄数や銘柄の入れ替えが多いが、それに対し、「長期で銘柄を厳選して投資するというのは当社の特徴だと思う」と伊井社長は話す。

 次回は、13年から運用を開始したコモンズ投信のもう一つのファンド「ザ・2020ビジョン」やセミナー活動などについて、解説していきたい。

(稲留正英・編集部)

((下)に続く)

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