【週刊エコノミスト創刊100年キャンペーン実施中】いまなら週刊エコノミストオンラインをお申し込みから3カ月間無料でお読みいただけます!

投資・運用投資の達人に聞く アフターコロナの資産形成術

投資の達人に聞く㉙ベイリー・ギフォード(中)「逆風」でもグロース株を辛抱強く保有――テスラは13年から、学術界との連携で医療・ヘルスケア株も発掘

CEOの米ツイッターの買収問題などはあるが、長期成長シナリオは揺らいでいない(米テスラの米ペンシルバニア州の充電施設)Bloomberg
CEOの米ツイッターの買収問題などはあるが、長期成長シナリオは揺らいでいない(米テスラの米ペンシルバニア州の充電施設)Bloomberg

 ベイリー・ギフォードの「世界長期成長株ファンド(愛称:ロイヤル・マイル)」はどのような銘柄に投資しているのか。

 6月末の投資銘柄数は39だ。1位は中国の消費者向け商品の買い物プラットフォームであるメイチュアン、2位はテスラ、3位はアマゾン、4位は中国テンセント、5位は蘭ASMLだ。6位の仏ケリングは高級ブランド「グッチ」などを持つアパレルメーカーだ。7位に米NVIDIA、8位に新型コロナのワクチンで有名になった米モデルナ。9位の中国ピンデュオデュオは、食品、電化製品などの電子商取引のプラットフォームを展開、10位のイルミナは遺伝子解析ツールを開発している。

組み入れ銘柄は消費、IT、ヘルスケア、地域は米中欧が多く

 国や業種、時価総額にとらわれず、長期に高成長が期待できる銘柄をボトムアップで投資するのがコンセプトだが、業種別では、①一般消費財・サービス37%、②情報技術26%、③ヘルスケア18%、④コミュニケーション・サービス14%、⑤資本財・サービスが4%の割合だ。国別では、①米国50%、②中国26%、③オランダ7%、④フランス7%、⑤ドイツ3%、⑥韓国2%で、米中欧の株式への配分が大きい。

上位10銘柄の入れ替わりは1年間で1銘柄のみ

 表は、公表されているロイヤル・マイルの月次運用レポートから、21年6月末と22年6月末までの組み入れ比率トップ10銘柄を比較したものだ。組み入れ順位の変動はあるが、21年6月末に組み入れ上位10銘柄のうち、9銘柄は1年後もトップテン内にある。アリババがモデルナに入れ替わっただけだ。

ベイリー・ギフォード「ロイヤルマイル」とひふみ投信の組み入れ上位10銘柄の推移
ベイリー・ギフォード「ロイヤルマイル」とひふみ投信の組み入れ上位10銘柄の推移

 同期間を日本の代表的なアクティブファンドであるレオス・キャピタルワークスの「ひふみ投信」の組み入れ上位10銘柄と比べてみると、ひふみ投信はインターネットイニシアティブを除く9銘柄が入れ替わっている。前回の(上)でロイヤル・マイルとひふみ投信の銘柄の平均保有期間は9.7年と0.9年と紹介したが、その数字を裏付ける構成銘柄の推移となっている。

過去1年間では36%下落、グロース株の運用に逆風

 一方で、同期間の運用成績を見ると、ロイヤル・マイルの36%の下落に対し、ひふみ投信は15%の下落と下落幅が少ない。22年の年初から、新型コロナやウクライナ戦争で、天然資源の世界的な供給ショックが起こる中、物価と金利が上昇し、グロース株が売られる一方、バリュー株が買われる流れが続いた。その中で、ひふみは一部、グロース株からバリュー株への銘柄の入れ替えを進める一方、ベイリー・ギフォードは、グロース株への投資を一貫して継続したことが、運用成績の差につながったと見られる。

ベイリー・ギフォード「ロイヤルマイル」とひふみ投信の過去1年間の運用成績
ベイリー・ギフォード「ロイヤルマイル」とひふみ投信の過去1年間の運用成績

「辛抱強い保有」を強調、短期的な銘柄入れ替えは否定

 これについて、ベイリー・ギフォードは6月発行のファンドレポートで、「金利上昇による株価の下落は、短期的なバリュエーションの調整という側面もあると考えている。長期的に大きく成長すると思われる銘柄については、業績改善による反発が期待できる」「長期投資の実践においては、短期的な相場の変動に左右されることなく、10年先を見据えた長期の視点で選び抜いた銘柄を『ゆるぎない信念』の下、“辛抱強く”保有することが重要だと考えている」とコメントしている。「市場のタイミングを見計らって取引しても、リターンを稼げる機会はほとんどない」というのがLTGG運用チームのスタンスだ。ポートフォリオの推移を見る限り、「成長株への長期投資」という同社の運用哲学は本物と言える。

企業の創業者との面談や学術界との連携で銘柄発掘

 それでは、ベイリー・ギフォードは具体的にどのように銘柄を発掘しているのか。同社によると①長期投資を通じた投資先企業との信頼関係に基づく、企業の創業者や経営者との直接の意見交換、②AI(人工知能)や医療など様々な先端分野での研究を行う学術界との連携、③ジャーナリスト出身の独立リサーチャーによる取材活動、④本のイベントのスポンサーとなることで可能な本の作者への取材――といった独自の情報源を活用しているという。

英大学の研究の後援で見い出したイルミナ

 ②の学術界との連携で、組み入れたのが、組み入れ10位の米イルミナだ。ベイリー・ギフォードは、英オックスフォード・ブルックス大学とエディンバラ大学で行われている遺伝子の研究を後援している。両大学はイルミナの遺伝子解析装置を採用しており、それをきっかけに、ベイリー・ギフォードは同社に2011年6月から投資している。イルミナは遺伝子の変異や生体機能を分析する統合システムを開発、製造、販売し、遺伝子解析の分野では世界トップシェアだ。顧客は、遺伝子研究機関、製薬会社、学術機関、バイオテクノロジー企業などである。

イルミナの遺伝子解析装置は世界でトップシェア(インドの研究機関で)Bloomberg
イルミナの遺伝子解析装置は世界でトップシェア(インドの研究機関で)Bloomberg

がんの遺伝子解析治療で大きな期待

 三菱UFJ国際投信商品プロモーション部の吉川雄貴・マネージャーは、「遺伝子のエラーが原因のがんの治療には、イルミナの遺伝子解析が有効、というのがベイリー・ギフォードの見解だ。がん患者で遺伝子のデータをとっているのは、まだ全体の1%程度。将来的に遺伝子解析のコストが下がってくれば、がん患者の治療に遺伝子解析が活用される。トップシェアのイルミナの収益が拡大し、株価も連動して上昇するというのがシナリオ」と語る。

テスラは2013年4月から投資開始

 組み入れ比率2位の米テスラには、13年4月から投資している。投資判断に用いる10のチェックポイントのうち、「今後5年で売り上げが2倍になる余地がある」ということが材料になった。調査自体は市場がEVに注目する前の08年から開始している。「最初は高級モデルの販売が先行したが、モデル3やYなど普及価格帯のモデルの投入で、価格に敏感な消費者の幅広いニーズに対応。顧客層の拡大が売り上げの拡大につながってくる」という見方だ。

 イーロン・マスクCEOによる米ツイッターの買収問題や、工場での差別、セクハラ問題なども明らかになったが、CEOはじめ会社側とのエンゲージメントを繰り返し、「長期的な成長が見込まれる銘柄」との投資判断は継続しているという。「企業文化そのものが既存の自動車業界の型を破り、革新的なサービス、製品を作り出していくという挑戦的なもの。販売網に加えて、EV用電池のコスト低下や収益力の改善に大きな取り組みをしている。企業文化としてのブランド力と、財務基盤の魅力を総合的に判断している」(吉川氏)。

モデルナはコロナ感染前の18年12月のIPOに参加

 新型コロナのワクチン開発で有名となった米モデルナには、コロナ感染が拡大する前、18年12月の株式新規公開(IPO)のタイミングで投資を始めた。元々、モデルナに注目したのは同社が持つメッセンジャーRNA(mRNA)のプラットフォーム技術で、感染症、がん免疫、循環器疾患治療用のmRNA治療薬の開発に期待したためだ。17年1月にモデルナのCFO(最高財務責任者)と米ボストンで面談、その後、18年4月にモデルナのCEO(最高経営責任者)がエディンバラのベイリー・ギフォードを訪問、同年11月に投資を決定した。20年のコロナの感染拡大で株価が急騰したが、mRNAを用いた創薬技術はワクチン以外の領域にも広範囲に応用可能との見立てだ。

米モデルナは今後、コロナワクチン以外のmDNA治療薬の開発が期待される Bloomberg
米モデルナは今後、コロナワクチン以外のmDNA治療薬の開発が期待される Bloomberg

脱炭素で期待のビヨンド・ミート

 3月末の組み入れ比率が0.7%で37位の米ビヨンド・ミートも注目銘柄だ。20年9月から投資を始めた。植物性の代替肉を利用したバーガー、ソーセージ、ミートボール、スライス肉などを製造する。従来の牛肉などに変えて、代替肉を使うことで、温室効果ガスの発生を従来比90%、土地の利用面積も90%超抑えることができるという。「世界の加工肉の市場は足元で5000億㌦程度あり、今後、代替肉の味の改善が進めば、大きな成長が期待できる」(吉川氏)という。 

米ビヨンド・ミートの植物性代替肉は、温室効果ガスの排出抑制効果が見込まれる Bloomberg
米ビヨンド・ミートの植物性代替肉は、温室効果ガスの排出抑制効果が見込まれる Bloomberg

 最終回は、ベイリー・ギフォードの歴史や、同社のESGファンド(インパクト投資ファンド)などについて紹介する。

(稲留正英・編集部)

((下)に続く)

インタビュー

週刊エコノミスト最新号のご案内

週刊エコノミスト最新号

12月13日号

論争で学ぶ 景気・物価・ドル円14 バブルは別の顔でやって来る ■熊野 英生17 鳴らないアラート 「経済の体温計」を壊した罪と罰 ■中空 麻奈18 対論1 米国経済 景気後退入りの可能性高い ■宮嶋 貴之19  景気後退入りの可能性は低い ■高橋 尚太郎20 対論2 日銀 23年後半から24年前半 [目次を見る]

デジタル紙面ビューアーで読む

おすすめ情報

編集部からのおすすめ

最新の注目記事