週刊エコノミスト Onlineロングインタビュー情熱人

ベトナムで枯れ葉剤被害を追い続け ドキュメンタリー映画監督、坂田雅子さん

「少し元気になったなと思えたのは、夫が亡くなって10年後くらい。今も孤独ですが、猫がいるので助かっています」 撮影=佐々木 龍
「少し元気になったなと思えたのは、夫が亡くなって10年後くらい。今も孤独ですが、猫がいるので助かっています」 撮影=佐々木 龍

坂田雅子 ドキュメンタリー映画監督/40

 ベトナム戦争の元帰還兵だった米国人の夫の死を機に、枯れ葉剤などに関するドキュメンタリー映画を発表してきた坂田雅子さん。枯れ葉剤が主題の作品としては集大成の新作「失われた時の中で」が8月20日に公開される。

(聞き手=井上志津・ライター)>>>ロングインタビュー「情熱人」はこちら

「戦争はみな同じ顔。いつになったら人は学ぶのか」

── 8月20日公開のドキュメンタリー映画「失われた時の中で」は、枯れ葉剤をテーマにした3作目。「集大成」と位置付けていますね。

坂田 はい。1作目の「花はどこへいった」(2007年)を製作する当初は、続編を作る気はありませんでした。しかし、1作目を終えて、まだ知るべきこと、見るべきことがあると思い、米軍帰還兵と子どもたちへの枯れ葉剤被害を取材して「沈黙の春を生きて」(11年)を作りました。それで終わりとするつもりでしたが、被害者支援のための奨学金制度「希望の種」を10年に設立したので、引き続きベトナムには通っていたのです。

 ビデオカメラを持参して記録として映像を撮っていたのですが、新型コロナウイルス禍で家にいる時間が長くなったこともあり、3作目を作ろうと思いました。カメラを持って動くのは体力的に限界も感じますし、まだ伝え切れていないことはあるので、今までやってきたことをまとめることにしたのです。

── 3作目を作る際、気をつけた点は?

坂田 被害者の話をカタログのように並べるだけでは映画にならないので、ストーリーを組み立てることが必要ですが、それがいつも難しく、今回も悩みました。今回は(映像の)編集者から、夫が残したさまざまな言葉を縦糸にして組み立てたらどうかというアドバイスをもらい、それがうまくいったのではないかと思います。私自身は自分の話をするのはためらいがあるのですが、最終的には底に流れる自分の気持ちが事実をつなぐ「のり」になって、作品がまとまったのではないかな。

「花はどこへいった」は夫の米国人写真家、グレッグ・デイビスさんが03年、肝臓がんのため54歳で急逝したのを機に製作した。グレッグさんはベトナム戦争中の1967~70年、米軍兵士として南ベトナムに駐留。米軍はベトナム戦争で枯れ葉剤という名のダイオキシン化合物を大量に散布し、戦争後もがんや子どもの先天性障害が多発していた。坂田さんはグレッグさんの死も枯れ葉剤が原因かもしれないと考えた。 ドキュメンタリー映画を作ろうとビデオ製作を学び、翌04年に取材を開始。ベトナムで目にしたのは、戦後30年を過ぎてなお、重い障害を持って生まれてきた子どもたちと彼らを慈しみ、育てる家族の姿だった。それから18年後。「失われた時の中で」は高齢化した親たちや、今も支援活動を続ける医師、米国政府と枯れ葉剤を製造した企業に対する裁判を起こした元ジャーナリストらの姿を記録した。

55歳で作り始めた映画

── 枯れ葉剤の取材を始めた時、発表の方法を写真や文章ではなく、ドキュメンタリー映画にしたのはなぜですか。

坂田 ドキュメンタリー映画には20歳ごろから興味はあったのです。でも機会がないままでした。02年にグレッグとアフガニスタンに行った時、小さなカメラを買ってホームビデオみたいに一緒に撮ったんですよ。それがとても楽しかったの。後から思えば、彼はこのころから体調を崩していたのですが、そうしたベースがあったので、すぐにドキュメンタリー映画の製作を思い立ちました。

── 55歳で映画を作り始めましたが、どのように学んだのですか。

坂田 グレッグの死後、米国でドキュメンタリービデオ製作を学ぶワークショップの2週間クラスをたまたま見つけて申し込み、ビデオカメラの扱いやコンピューターでの編集の仕方を一から教わりました。何もしなければ沈んでしまいそうだったので、もう夢中でした。彼…

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