適格請求書求めるインボイス制度に出版や作家団体から続々反対声明=永江朗
出版業界に重荷の「インボイス制度」
2023年10月から運用が始まる予定のインボイス制度について、出版関係団体や作家団体等から反対声明が相次いでいる。インボイス制度とは、消費税の仕入れ税額控除の方式の一つ。出版業界でいえば作家やデザイナーのような個人事業主など課税事業者(消費税の納入者)が発行するインボイス(適格請求書)に記載された税額のみを控除できる方式。
2月3日に一般社団法人日本出版者協議会(出版協)が「インボイス制度(適格請求書等保存方式)に反対する」と題する声明を発表した。その後、7月に入ると公益社団法人日本漫画家協会、一般社団法人日本アニメーター・演出協会、一般社団法人日本SF作家クラブが、それぞれ反対声明を出した。
反対する理由の第一は負担の大きさ。この制度が始まると売上高1000万円以下の免税事業者(消費税納税義務がない事業者)でもインボイスの発行を出版社などから求められる可能性が高い。免税事業者のままだと出版社は仕入れ税額控除ができないからだ。「インボイスを発行できない場合、発注元と漫画家との関係悪化、もしくは最悪、免税事業者であることを理由に取引が中止される等のリスクが考えられます」と日本漫画家協会の声明文にある。
たかが請求書の発行という人もいるかもしれないが、フリーランスには重い。筆者は数年前に有限会社をたたんで個人事業主に戻したが、理由の一つは請求書発行の作業がつらいからだ。
インボイスを発行するためには、所轄の税務署に登録して免税事業者から課税事業者への変更が必要になる。だが、課税事業者になって簡易課税か本則課税を選ぶのは、年度によって売り上げや経費の変動が激しい作家や漫画家などの実情に合っていない、と日本SF作家クラブの声明文は指摘している。
また、インボイス発行事業者になると適格請求書発行事業者公表サイトに本名が公表される。ペンネームで活躍している漫画家や作家にとっては、本名がネットで晒(さら)されたりストーカー被害に遭ったりするのではないかという不安の元である。
制度そのものを設計し直す必要があるのではないか。
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