国際・政治

日本と韓国の「すれ違い」はなぜ生じるのか 澤田克己

「公式謝罪」と書かれたプラカードを掲げ、日本政府の謝罪を求めて行進する人々=ソウルで2022年8月10日撮影
「公式謝罪」と書かれたプラカードを掲げ、日本政府の謝罪を求めて行進する人々=ソウルで2022年8月10日撮影

 日本と韓国は、互いのことを「分かったつもり」になりがちだ。だが実際には、理解し合えない部分がどうしても残る。日韓関係の改善が双方の利益になると考えている人たちであっても、相手国の事情をきちんと理解するのは難しい。8月下旬に東京で3年ぶりの対面開催となった「日韓フォーラム」で、多くの専門家たちの議論を聞きながら、改めてそう実感した。日韓で、互いの認識が「かみ合っている」のはどの点で、「すれ違っている」のはどの点なのか。フォーラムでの議論をもとに、考えてみたい。

「米中露に囲まれた」日韓の共通性

 日韓フォーラムには、両国の政治家や研究者、経済人、記者ら計約40人が参加した。米中対立の長期化とロシアによるウクライナ侵攻によって、日韓両国を取り巻く安全保障環境は激変している。共通の同盟国である米国を交えた「日米韓」の連携強化が両国の利益だという基本認識は、多くの参加者に共有されていた。

 興味深かったのは、「日米中露」を「4強=韓国を取り巻く四つの強大国」とする韓国の一般的な安保観に対する、日本側の「異議」だった。日本側からは「むしろ、米中露という3強に囲まれた日韓という認識の方が正しい」と指摘が出た。確かに、中国との経済的関係を考えると、日韓の置かれている立場には共通性がある。

 私の取材経験から言えば、かつて世界貿易機関(WTO)で進められた通商交渉の場でも、日韓は「食料を輸入に頼る工業国」としての立場を共有していた。国連における投票行動を分析した韓国の専門家から、「日韓両国の投票行動は98%一致していた。中東問題で食い違いの出る韓国と米国、または日本と米国の一致度より高い」と聞いたこともある。こうした点は、もっと意識されるべきだろう。

「動かない日本」に対する韓国の不満

 韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は8月15日の「光復節」演説で、「かつて私たちの自由を取り戻し、守っていくために、その政治的支配から抜け出さなければならない対象だった日本は、いまや世界市民の自由を脅かす挑戦に共に立ち向かい、力を合わせていかねばならない隣人となった」と強調した。「日本による植民地支配」という負の歴史ではなく、未来を見よう、というメッセージである。

日韓関係の改善に強い意欲を示す尹錫悦大統領 Bloomberg
日韓関係の改善に強い意欲を示す尹錫悦大統領 Bloomberg

 2日後に開かれた就任100日の記者会見では、読売新聞記者から徴用工問題について質問され、更に踏み込んだ発言をしている。いわく、「日本政府が憂慮する主権問題と衝突することなく、債権者(原告の元徴用工)も保証を受けられる解決案を検討している」。日本企業の資産売却(現金化)(拙稿「徴用工問題の重大局面を前に『引き金を引きたくない』日韓の“本音”」参照)を食い止める考えを明確にしたものだ。

 ただ、内政的な事情で尹政権の支持率は低迷している。対日関係の改善に向けた尹氏の意気込みは強いものの、いつまでも一方的な求愛のような形を続けていれば「屈辱外交」という批判世論が高まりかねない。韓国側からは、尹氏を側面支援するシグナルを出そうとしない岸田政権への不満が聞かれた。

 日本側からは「岸田文雄首相らの話し方は、以前よりマイルドになった」という声もあったが、韓国側には全くそういう認識はなさそうだった。

また、日韓双方から、「もはや実質的な効果がなくなっている対韓輸出規制(2019年)を撤回すべきだ」「過去の首相談話などに盛り込まれた歴史認識を、岸田文雄首相自ら改めて表明すべきだ」といった意見が上がった。

日本側の抱く3つの「ためらい」

 尹氏の対日姿勢については好意的な評価が多かった。一方、政界事情に詳しい日本側参加者からは、「日本の政治家には3つの“ためらい”がある」という指摘があった。①結局また駄目になるのではないか、②韓国はどこまで本気なのか、③日本が尹政権を称賛することが本当に尹政権の助けになるのか――というものだ。

 一つ目の「ためらい」は、かつての慰安婦合意(2015年)を文在寅(ムン・ジェイン)前政権が骨抜きにしたことに起因する。「不可逆的な解決とまでうたったのに、引っ繰り返された。また同じことにならないか」と考えてしまうのだという。

日本側には、かつて文在寅(ムン・ジェイン)前政権が慰安婦合意(2015年)を骨抜きにしたのと同じことが起きるのでは、という懸念がある
日本側には、かつて文在寅(ムン・ジェイン)前政権が慰安婦合意(2015年)を骨抜きにしたのと同じことが起きるのでは、という懸念がある

 この点に関連して韓国側が強調したのは、「世論の理解を得ることの重要性」だった。慰安婦合意がうまくいかなかった理由の一つは、韓国世論の説得をうまくできなかったことにある、という認識が背景にある。尹政権支持の保守派参加者からも「もはや密室外交のできる時代ではない。透明性が重要であり、世論の支持を得られるようにしなければならない。被害者(当事者)の反応も無視できない」と指摘された。

 二つ目の「ためらい」については、「韓国は果たして本気なのか」という疑念を生む理由として、竹島周辺における韓国の海洋調査を挙げた。「内政上の理由はあるのだろうが、関係改善に言及しつつ、調査をしているのは理解しがたい」という。

 これについての韓国側の反応はどうだったか。時間切れで突っ込んだ議論はできなかったが、休憩時間に話をした韓国の政界関係者は竹島での海洋調査について「何年も前からルーティンワーク化している。政権レベルでわざわざ指示を出すような業務ではなくなっているので、突然中止したり内容を変更したりするのはむしろ難しい」とこぼした。領土問題で譲歩したと野党に攻撃されかねないだけに、なかなか動きづらいというところだろう。

 最後の「ためらい」は、日本側が「尹大統領は素晴らしい」と発信することが本当に尹氏の助けになるのか、という疑念である。反日世論を刺激する「ほめ殺し」にならないかという懸念とも言える。ただ、韓国側が「日本からも前向きの反応が出てこないとつらい」と繰り返していることからすれば、これは日本側の考えすぎだろう。

「道徳性」を巡るすれ違い

 今回、意外だったのは、日本に厳しいイメージのある韓国進歩派の論客から「文政権の対日政策には大きな過ちがあった」という意見が聞かれたことだ。徴用工問題についても、「請求権協定があるから日本企業に賠償させるのは難しいだろう。ただし、道義的な謝罪は必要だ」という考えを示した。韓国の進歩派だからといって強硬一辺倒と言えないのは当然だが、見落としがちな点だ。

 一方、豊かになって自信を付けた韓国世論と向き合う難しさを印象づける指摘も聞かれた。

 日韓の歴史認識問題に長年取り組んできた専門家は「対日関係を改善すべきではあるものの、自尊心を捨ててまで進める必要はない、という考え方が韓国社会では主流になっている」と語った。別の専門家は「『被害者』である韓国の方が正しいのだから、最終的にはこちらの主張が認められるはずだ、という考えが社会全般にある。道徳的に韓国側が優位にある、という自信だ」と指摘した。

 近年の韓国では、儒教的伝統を背景に「こうあるべき」という道徳的正しさを重視する思想が復権しつつある。日本社会と大きく異なる点であり、近年の関係悪化の要因にもなっている。自分たちが「被害者」や「犠牲者」だったという意識を世襲するナショナリズムの高まりは、世界各地で歴史認識がらみの紛争を引き起こしている。

「国家間の危機管理」を補完する民間対話

 日韓フォーラムは今年、30回目を迎えた。1993年の日韓首脳会談での合意に基づいて始まったが、政府関係者は参加しない。民間の立場で、本音の議論を重ねていこうという趣旨だ。

 設置の経緯を知る元日本政府高官によると、1991年に慰安婦問題が懸案として浮上したのが契機となったという。この年、初めて韓国の元慰安婦が実名で名乗り出たことで、それまで大きな関心を持たれずにいた慰安婦問題が外交懸案にまでなった。

在日韓国大使館の領事部前で、観光ビザを求めて列に並ぶ人々=東京都港区で2022年6月7日撮影
在日韓国大使館の領事部前で、観光ビザを求めて列に並ぶ人々=東京都港区で2022年6月7日撮影

 1965年の請求権協定で、全ての請求権に関する問題が「解決済み」とされたので、この時も日本政府は「法的に解決済み」という立場を取った。ただ政府内にも、「法的に解決済みであることは百も承知だが、人間としてそれでいいのか」という思いを持つ人が多かった。

 そうした思いを当時の宮沢喜一首相が受け止めたことで、慰安婦問題についての取り組みが続けられ、それが後のアジア女性基金につながった。元高官がこの時に痛感したのは、「国家間の危機管理」としての外交だけでは限界があるということだったという。

 直接の政府当局者ではない人々が両国から集まって本音を語り合い、時に衝突しながらも交流を続ける。現状を正しく分析し、問題を克服するためにどう行動するかを考える。元高官は「それが、政府の入らないフォーラムの役割だ」と力説した。こうした努力の積み重ねが、日韓関係のこう着状況打開につながることを期待したい。

澤田克己(さわだ・かつみ)

毎日新聞論説委員。1967年埼玉県生まれ。慶應義塾大学法学部卒業。在学中、延世大学(ソウル)で韓国語を学ぶ。1991年毎日新聞社入社。政治部などを経てソウル特派員を計8年半、ジュネーブ特派員を4年務める。著書に『反日韓国という幻想』(毎日新聞出版)、『韓国「反日」の真相』(文春新書、アジア・太平洋賞特別賞)など多数

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