教養・歴史書評

百年戦争を舞台に活躍した「聖少女」ジャンヌ・ダルクの生涯を描く=本村凌二

 百年戦争という名はよく知られていても、日本人の多くはそれほど関心がないのではないだろうか。14世紀半ばから15世紀半ばまで、フランスの王位と領土をめぐる争いであった。イギリスの領土はフランス内部まで深くくいこんでおり、ワインの産地ボルドーもその支配下にあった。このために、イングランドではブドウの生産はほとんどないが、それまでイギリス人は自国産のワインを飲んでいたのである。

 この百年戦争を舞台に登場する少女ジャンヌ・ダルクであれば、そこに関心が向く読者も少なくない。加藤玄著『ジャンヌ・ダルクと百年戦争』(山川出版社、880円)は、この少女に焦点をあてながら、歴史のなかで語り継がれる様を描き出す。

 1412年ごろ、フランスのドンレミ村で生まれたジャンヌは、13歳のとき、「神の声」を聴いたという。この声を信じたジャンヌは、600キロメートル離れたシノン城に到着し、国王シャルル7世に謁見した。そのころ、戦争や疫病などの災厄に苦しめられたキリスト教世界では、預言者の啓示が求められていたらしい。

 ジャンヌは勝利を予告し、自分自身も男装して戦いに参加しようとした。彼女をふくむ救援軍は進軍してオルレアンに入った。当初のところ、ジャンヌは兵士たちに信頼されなかったが、ほどなく敵の矢で負傷すると、彼女の旗印で兵士たちを結集し、彼らを鼓舞して、砦(とりで)の奪取を成し遂げた。イングランド軍は数百人の犠…

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週刊エコノミスト

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